2024年12月7日(土)

この熱き人々

2018年3月21日

偶然に導かれ飛び込んだ制作現場で、映画作りの面白さに取りかれた。時代と人間を独自の視線で捉え描く作品は、社会に大きなインパクトを与えてきた。監督として不動の評価を得た今もなお、未到の頂を目指し走り続けている。

 東京・銀座の東映本社ビルの屋上。東映稲荷大神社の赤い鳥居の前で滝田洋二郎は深々と頭(こうべ)を垂れた。何層ものコンクリートを突き抜けて地面とつながる稲荷社。時代が変わり土が消えた都会でもなお、土と共に生きてきた日本人の気質が消え残っていて、その前で祈る人がいる。滝田の姿に、映画「おくりびと」に描かれた日本人の死生観を培った土着の風土を垣間見たような気がした。

 「クランクインする時も、完成した時も、それまでのすべての思いを込めて手を合わせるのは、映画の世界の習慣ですから」

 たくさんの人が関わり、時には危険な撮影もある。全身全霊で作品を仕上げ、最後は多くの人に観てもらいたいという願いを託す。

 滝田の最新作、厳寒の北海道で過酷なロケを重ねて完成させた「北の桜守(さくらもり)」が、3月から公開されている。戦争、樺太(からふと)からの引き揚げ、北国の美しくも厳しい自然、その中でそれぞれの戦後を生き抜いて再会する母子の物語。

 「母と子のつながっている思いがテーマです。現実の中で辛い年月を経てなお、生きていくことは悪くないという思いを伝えたかった」

 主演は吉永小百合。その息子役に堺雅人。滝田とは初顔合わせの吉永の、映画出演120本目という節目の作品になる。

 「我々映画人にとって吉永さんとご一緒するって、やっぱり特別なことなんですよねえ。吉永さんの映画を君が撮るなんて信じられない、と驚く人もいてね。日本映画界を牽引してきた大先輩で、至宝ともいえる方ですから。近代映画界の王道を歩いてきて、ご自分のスタイルを貫いていらっしゃる。片や僕といえばゲリラのような撮影、ライブ感あふれる何でもありの方法で映画を撮ってきたわけでしてね、作り方もテイストも映画観も全部違っている。ある意味プレッシャーもありましたが、がっぷり組みきれるか、自分の映画を撮りきれるか、そこに賭けたいと思いました」

 北極回りと南極回りほど歩んできた道が違うふたりが、この作品で同じ地平に立って真剣勝負を展開する。異種格闘技のようにして産み落とされた作品だと、滝田は笑った。


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