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Washington Files

2018年8月20日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。著書に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

巨大ファミリー企業

 1940年、中西部のカンザス州ウチタで建設関係の製造メーカーとしてスタートした旗艦会社「コーク・インダストリーズ」はその後、精油、パイプライン、金属、製紙、ケミカル・テクノロジーから牧畜、金融、商品取引など多くの分野にまで手を広げ、今日では世界60か国以上で事業を展開する文字通りのグローバル・コングロマリットとなった。ファミリー経営会社としては全米第2位の規模(1位はカーギル社)を誇り、従業員数12万人、営業収入も1150億ドル(約12兆6000億円)に達している。

 個人会社であるだけに創業者の父親の代から豊富な資金を自由に政治運動にもつぎ込むようになり、政府の干渉を最小限にとどめ自由競争に重点を置く「小さな政府」や諸外国との「自由貿易」推進を提唱、政府による国内産業保護にも反対してきた。

 この点で、2016年大統領選の選挙戦を通じ外国との自由競争には背を向け「アメリカ・ファースト」を唱えてきたトランプ氏との対立は、同じ共和党ながら避けがたいものだったといえる。事実、コーク兄弟はこの時の選挙では、「リバタリアン」に共鳴するトランプ候補以外の複数の共和党大統領候補に惜しみなく資金を投入してきた。

 そして今回トランプ氏との不仲が決定的となった結果、米マスコミの関心は、4億ドルのコーク・マネーが今後、11月中間選挙までにどこに振り分けられるか、に集まってきている。

 この点に関連してチャールズ氏は報道陣の質問を受けて「われわれ(コーク・ネットワーク)はいくつかの間違いを犯してきた。過去何回かの選挙を通じて1つの政党だけに焦点を当てて献金してきたことを後悔している」と意味深長なコメントをし、11月の中間選挙では共和党以外の候補に対する支援にも含みを残し注目された。

 しかし、チャールズ氏も弟のデービッド氏も今のところ支援対象の特定候補の名前には言及していない。

 その一方で、すでに大きな話題になっているのが、ノースダコタ、ペンシルバニア、インディアナ各州での共和党上院候補に対するコーク・グループの反応だ。というのは、これまで共和党が民主党とわずか2議席の差で多数を制してきた上院だけに、もし11月中間選挙で民主党が現状から2議席増の結果となれば、たちまち立場が逆転するからだ。

 このうちまず、ノースダコタ州で、コーク・グループの草の根組織「アメリカンズ・プロスペリティ」(アメリカの繁栄)は、民主党のハイディ・ハイトカンプ現職議員に挑戦する共和党のケブン・クレーマー下院議員について「貿易政策や移民問題で立場が不鮮明」との理由で、公式に不支持を表明した。このため、目下選挙戦は接戦が伝えられ、これから終盤にかけて多額のテレビ・コマーシャル費用を必要としているだけに、クレーマー候補陣営はショックの色を隠せないでいる。

 インディアナ州で、民主党のジョー・ドネリー現職議員に戦いを挑むマイク・ブラウン共和党候補に対しては、同組織は最近のトランプ大統領による「関税戦争」に同調していることを理由に、今のところ支持表明を渋っているという。

 また、ペンシルバニアでの選挙戦については、共和党候補のロウ・バーレッタ現職下院議員が大統領主導ですでに成立した大型予算案を支持したことが理由で、同組織から批判の矢面に立たされている。

 これとは対照的に、上院選での戦いに関連してコーク・マネーの資金投入先がすでに明らかになった州として、フロリダ、ミズーリ、テネシー、ウイスコンシンなどがあり、これらの州では「自由貿易推進」などを表明する共和党候補が支援を受けることは確実だ。
 
 コーク兄弟はともに、コロラドスプリングスでの「研修会」などを通じて「とにかく上院、下院選挙のいずれにおいても、大事なことは国を分裂させ国力をそぐような(トランプ大統領の)政策に歯止めをかけ、自由で豊かな国にすることである」「結果的に当選者の党所属名がどちらに成るかは関係ない。要は、今回の選挙を通じいかにアメリカにまともな政治を取り戻すかだ」とも語っており、とくに接戦州で苦戦中の共和党候補たちにとっては、「大統領支持か、選挙資金か」の“踏み絵”を迫られた格好になりつつある。

 これに対し、2016年大統領選でトランプ陣営の選対本部長を務めたステイーブ・バノン氏は「コーク兄弟は人柄は悪くないが、投票日まであと100日しか残されてない時期に、民主党を喜ばせるようなトランプ攻撃をやめるべきだ」と反発を強めている。

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