18世紀から19世紀のロイヤルネイビー
海事博物館の解説によると、この時代大型帆船の戦艦建造に英国は国力を傾けていた。戦艦は60~100門の大砲を搭載、乗組員は800人から900人超。
トラガルファー海戦では英国艦隊27隻とフランス・スペイン連合艦隊33隻が激突。両軍合計で5万人が戦闘に参加している。英国艦隊の乗組員の出身地が地図上に記載されている。英国以外にインド、アフリカ、カリブ、南米、中国出身の水兵もいる。植民地出身者も総動員である。
18世紀を通じて英国はフランス、スペインと世界各地で勢力争いを繰り広げた。18世紀から19世紀にかけて英国は主な戦争だけでもスペイン継承戦争、7年戦争、アメリカ独立戦争、ナポレオン戦争、米英戦争、クリミア戦争を戦い大英帝国の最大版図を築く。
そのためロイヤルネイビーの強化拡大は不可避であった。特にナポレオン戦争中は大陸封鎖作戦のため急拡大。1809年にはロイヤルネイビーは14万人、732隻の軍艦を擁していたという。現在世界最大の米国海軍と比肩しうる巨大組織である。
ロイヤルネイビーは国家そのもの
1815年には15万人、936隻の軍艦を保有していた。巨大艦隊を維持するためには巨額の税収が必要である。税収確保のため益々植民地を拡大して通商交易で利益を得る。拡大する植民地と通商交易路を維持するために広大な海域の制海権確保が必要となる。そのためにさらに海軍力を強化する。
動くパネルでこうしたロイヤルネイビー拡大のサイクルを平易に説明していた。古今東西の大国に共通する軍事力肥大化のサイクルを見ながら中国、米国の軍拡サイクルは止まらないと思った。
当時ロイヤルネイビーは年間1万1千トンのパン、9500トンの生肉、4500トンの木材を調達し、74隻の軍艦を建造。木材はバルト海地方から大量に輸入。
プリマスの造船所(dockyard)は1690年創設、1800年代が最盛期。1814年には3869人を雇用。これはプリマスの人口の25%に相当。造船所の従業員には軍人と同様にヘルスケア、年金が供与されていたという。
艦隊勤務は身分制度社会の縮図
当時の戦艦の乗組員の構成を図示した展示がある。
【100門の大砲を持つ戦艦(100-gun Ship of the Line)の乗組員: 837名】
1%=勅任官(Commissioned Officers)、提督(Admiral)、艦長(Captain)、副官(Lieutenant)
1%=士官(Warrant Officers)、艇長(Master)、会計士官(Purser)、軍医(Surgeon)、掌帆長(Boatswain)、砲術長(Gunner)
14%=準士官・下士官(Inferior and Petty Officers)、武器整備士(Armorer)、コック(Cook)、鉄砲鍛冶(Gunsmith)、帆の修理士(Sailmaker)、教師(Schoolmaster)、先任衛兵伍長(Master-at-Arms)、士官候補生(Midshipman)、操舵手(Coxswain,Quartermasters)、砲手(Gunner Mates)
20%=海兵隊(Royal Marine)、士官と兵士
64%=一般水兵(The People)、熟練水兵(Able Seaman)、二等水兵(ordinary Seaman)、新米水兵(Landsman)、召使(Servant)、ボーイ(Boy)
【注釈】教師の役割が不明であるが当時教育を受けていない文盲の少年が多数乗組んでおり読み書き算盤を教えていたのではないかと推測する。規則上は6歳から乗艦が許される。先任衛兵伍長は一般水兵の管理監督を担当し憲兵のような役割であろうか。海兵隊は陸戦部隊であり要塞の攻略などに活躍、さらに敵艦との接近戦や敵艦に乗り込んでの肉弾戦でも不可欠であったようだ。
ネルソンのように初等中等教育を受けて親族の後ろ盾があるような中産階級または貴族階級出身者は士官候補生からキャリアをスタートして20代で艦長となる。他方で一般水兵はどんなに頑張っても准士官・下士官止まりである。一般水兵のロイヤルネイビー物語(艦隊勤務、引退後の生活など)は次回に続く
⇒第6回に続く
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