ロシア資本の水産加工工場、日本に対する牽制か
他方、色丹島ではギドロストロイ社の新しい水産加工工場が大規模に建設されていて、訪問団に大きなショックを与えた。その工場は、船から穴澗港に降りるとすぐに目の前に飛び込んでくる立地に建設されている。色丹島にはもう一つ斜古丹港があるが、そちらは軍港で日本人は入れず、穴澗港が日本人にとっての唯一の玄関口であるのだが、そのようなところにロシア資本の立派な工場が建設されていることは、日本に対する牽制ではないかとも言われている。
同工場の建設は2年前に決まり、昨年は基礎工事のみで、今年から建屋を建設しているが、最高レベルの工場の建設を目指しているという。そして、普通の漁業も定置網漁もできる近代的な漁船をノルウェーから購入し、水産加工のラインはアイスランドから購入したという。現在、スケソウダラ、まだらの加工ラインと冷凍施設はほとんど完成し、鯖、イワシ用のラインは現在通関中だという。魚粉、魚脂を製造する機械もアイスランドで購入し、9月上旬に入って来るとのことだった。また、缶詰工場用の機械はドイツから購入予定だという。そして、水産加工で生じた廃棄物をミルで粉砕するための工場もついており、廃棄物の管理も徹底して、当地の環境を守るのだという。
この工場は、年内に完成させて操業を開始したいそうだ。工場が完成すれば、内外から技術者なども招聘するので、その人たちのためのホテルもすでに建設し、労働者用の寮や従業員の文化的生活のための体育施設などもこれから作るという。
海底ケーブル敷設でネット環境も整える
加えて、色丹島では、海底ケーブルが敷設された事実も突きつけられた。2017年1月に、ロシア通信大手の「ロステレコム」は、海底光ファイバー通信回線『サハリン-クリル諸島』の海底ケーブル、陸揚げ局および付随する陸上インフラの設計に関する公開入札を、中国大企業『ファーウェイ(Huawei)』が勝ちとったことを発表していた。その回線により、インターネットアクセスやVPNサービスの利用、通信回路のレンタルを可能にするほか、ネットワークリソース全体が拡大するとも述べられていた*3。
その建設状況については把握していなかったのだが、色丹島のカゲノマ海岸を視察した際に、訪問の2週間前、つまり8月半ばにこの下に海底ケーブルが設置されたといわれ、設置の迅速さに驚いた。まだ通信はできておらず、年内の通信開始を目指すとのことだったが、これまで北方領土の通信は衛星によって行われていたため、インターネットなどもとても遅かったという。しかし、同回線が開通すれば、インターネットも電話も極めて早く、快適になるそうだ。
なお、北方領土の多くの地域は国立公園、国立保護区で、人が住むことが認められていない一方、絶滅危惧種を含む希少種の保護や森林保護に努めているという。
*3:同回線は約940キロメートルで、サハリン州の州都ユジノサハリンスクと択捉島の紗那、国後島の古釜布、色丹島の穴澗を結ぶ。