2024年12月23日(月)

Washington Files

2018年10月9日

(iStock.com/flySnow/Purestock)

 2016大統領選でトランプ候補の勝利を決定づけた無党派層の間で今、“トランプ離れ”が起きつつある。11月中間選挙を目前に控え、すでに苦戦が伝えられる議会共和党陣営は警戒を強めている。

 “buyer’s remorse”という表現がある。直訳すれば、デパートなどで衝動買いしたことを後から反省する、という意味だが、2016年大統領選後、ワシントン政界スズメの間でこの言葉がしばしばささやかれるようになってきた。トランプ氏に投票した有権者の間で自己反省の声が出てきたというのだ。

 とくに今年に入ってこうした有権者が増えつつあるといわれ、中でもめだつのが、前回大統領選挙戦の終盤でトランプ支持に動いた無党派層の意識の変化だ。

 これまでトランプ候補の勝因については、「ラストベルト(さびついた工業地帯)」の白人労働者たちの動向がカギとなった、というのが一般的な見方だった。

 しかし、専門家たちのさらに緻密な選挙分析結果によると、トランプ氏がヒラリー・クリントン民主党候補と大接戦の末に最後に勝利した決定的要因は、中西部の保守的な“プア・ホワイト”よりむしろ、民主、共和両党のいずれにも属さない無党派層の存在だったという。

 たとえば、無党派層の政治組織「無党派有権者プロジェクト(Independent Voter Project)」共同議長ダン・ハウル氏の2016年大統領選挙分析が参考になる。

 ハウル氏によると、民主、共和両陣営が、中西部ミシガン、ペンシルバニア、ウイスコンシン3州にしぼって実施した事前の有権者追跡調査では、両党支持票は「ほぼ互角」だった。ところが、この3州のうちとくに勝敗の決め手となったウイスコンシン、ミシガン両州では当時、選挙委員会に「無所属independent」として登録していた有権者数は実際には全体の3分の1にも達していた。

 にもかかわらず、CNNをはじめとする4大テレビや、ワシントン・ポスト、ニューヨーク・タイムズなどの主要紙のいずれもその存在にほとんど目を向けず、従って微妙な投票動向の変化を見落とした。しかし結果的に、この3分の1の有権者の多くが最後の段階でトランプ支持に回ったことが勝敗の分かれ目になったという。

 ちなみに、両州でのトランプ氏のクリントン候補との最終獲得票差は、ウイスコンシン州で1万2748票(0.77%差)、ミシガン州で1万404票(0.23%差)と驚くほどの僅差だった。また、ペンシルバニア州でもその差はわずか2万4322票(0.72%差)にとどまっており、もし、この3州をトランプ候補が落としていた場合、クリントン候補が選挙人数で46人を上積みすることになり、逆に当選を果たしていたことになる。

支持率を支える好調な経済

 そこでもし、このように2016年の大統領選挙の勝敗が、専門家の分析結果が示す通り、無党派層の最終的投票動向に左右されたとすれば、来月に迫った中間選挙でも当然のことながら、その動きが注目されることになる。

 そしてその特徴のひとつが、“buyer’s remorse” すなわち、トランプ政権に対する”幻滅感“だとされる。その背景として、就任後、次第に露呈してきた大統領の常軌を逸脱した言動、虚言癖、政権内の混乱、貧富格差の拡大などが指摘されている。

 ただ、だからといってトランプ氏に投票した保守派の支持基盤が揺らぎ始めているわけではもちろんない。むしろ、世論調査結果を見ると、政権発足1年半を経過した後も、支持率は「40%前後」とやや低めながら安定基調が続いてきた。さらに共和党支持層にしぼった支持率では、大統領自身のセックス・スキャンダル、モラー特別検察官によるロシア疑惑などをめぐるあいつぐ批判にもかかわらず、80%近くと、以前とほとんど変わっていない。

 それを支えているのが、ウォール街の株価に反映される好調な経済だ。

 景況感そのものは、オバマ前政権2期目半ばから回復基調にあり、GDP、雇用率などの数値もはっきり改善しつつあったことは事実だが、大幅減税、規制緩和をはじめとするトランプ政権下の大胆な経済政策が景気加速に大きく貢献してきたことは間違いない。大統領も自賛する通り、失業率は今年9月統計で3.7%と就任時の5.5%から着実に改善、過去49年ぶりの最低を記録した。雇用も順調な拡大を見せ、平均賃金の伸び率も過去9年で最大となっている。


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