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2018年10月29日

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松尾康憲 (まつお・やすのり)

ジャーナリスト

1953年生まれ。76年共同通信社入社。87年から2004年まで北京特派員、上海支局長、ハノイ支局長を歴任。現在は放送報道局委員。著書に『現代ベトナム入門 ドイモイが国を変えた』(日中出版)、共訳書に『中国の禁書』(新潮選書)、『性愛の中国史』(徳間書店) 

現実離れした
内部補填禁止の制約

 成年後見人になって間もなく、家裁が百沢力に課す制約が見えてくる。2002年9月、八王子支部の調査官から届いた「ご連絡」の要旨は次の通りだ。

――①トシ子さんの施設費、国民年金保険料などの負担金、所内での身の回り品費用などの生活費などは、トシ子さん名義の通帳(施設管理)に振り込まれる年金収入の中から支出し、不動産管理にかかる費用とは区別する。

 ②いわきの不動産にかかわる費用(いわきの不動産の固定資産税、管理費用、今後の訴訟費用、ローンなど)は、いわきの不動産の賃収入から区別する。

 ③豊島区の不動産にかかわる費用(力さん・トシ子さん双方にかかる固定資産税、管理費用、ローンなど)は、豊島区の賃収入から支出する。豊島区の不動産の果実が残っても、力さん自身のために支出しない――

 要するに財産ごとに財布を分けろ、ということだろう。そうすれば不正流用は未然防止できるし、家裁としては百沢が年1回提出する収支報告書を読みやすい。

 しかし、言うのは簡単だが実行は無理だ。豊島区のマンションのローン返済(③)が難しくなっているのだから、他の財布(①または②)から資金を注入するしかない。

財布を奪われた後見人
借金返済が「悪」と

 百沢の奔走がようやく実を結び、2004年3月に福島県いわき市の駐車場を約1億6000万円で売却し、豊島区のマンションの借金を約6000万円に減らした。社会常識に基づけば快挙と評価されるだろう。

 しかし百沢は、家裁八王子支部の調査官に、毎年夏が来るたび呼び出され、「審尋」として、財産を適正に使用しているか問い質されてきた。トシ子にかかわる費用は用途によって財布を分け、内部補填を禁じるルールを逸脱しているとの疑念が、家裁側には膨らみ続けていたのだ。駐車場の売却益による母子の借金弁済で、疑念の集積が沸点に達する。

 家裁八王子支部の家事審判官は07年8月、大ナタを振るった。百沢を母トシ子の身上監護担当、つまり生活上の面倒を見ることに限っての成年後見人に格下げし、百沢に面接の機会すら与えないまま、財産管理担当の成年後見人として弁護士Mを選任し、2人の後見人が「事務を分掌」するよう命じる審判を下した。

 この審判では、理由が書かれていない。後に百沢はMの後見人解任を求めて東京家裁立川支部に申し立て15年10月に却下される。この却下の審判理由の中で、07年の事務分掌を命じるに至った家裁側の判断理由を次のように説明している。
(注:東京家裁八王子支部は09年4月に立川支部へと移行した。家事審判官の呼称は適用法の変更により13年元日付で裁判官へと改まった)

――申立人(百沢)が、申立人と成年被後見人(トシ子)の財産を峻別しておらず、成年被後見人名義の不動産を売却して成年被後見人と申立人の負債を返却していること、成年被後見人から申立人の妻に対し、給与として報酬が支払われていること、申立人が作成した報告書の記載が不正確である――

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