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2018年10月29日

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松尾康憲 (まつお・やすのり)

ジャーナリスト

1953年生まれ。76年共同通信社入社。87年から2004年まで北京特派員、上海支局長、ハノイ支局長を歴任。現在は放送報道局委員。著書に『現代ベトナム入門 ドイモイが国を変えた』(日中出版)、共訳書に『中国の禁書』(新潮選書)、『性愛の中国史』(徳間書店) 

 百沢が悪事を成したかのような論断である。成年後見人を体験した筆者は、この文面から、法制度の運用が現実の社会生活や生身の人生と乖離していることを痛感する。その理由は、次の3点だ。

 ①審判は、百沢の負債返済を責めている。だが、百沢が勝手に作った借金の返済に充てたわけではない。亡父から東京都豊島区のマンションについての3分の1の所有権および同率の負債を相続し、資産も負債も母子の物が混然一体となっており、借金返済が百沢分にも及んだのである。母を追って己も老いていくことを顧慮する年配となった百沢が、放置しておけば金利が膨らんでいく借金の返済を焦る気持ちも汲み取れていない。

 ②トシ子が、百沢の妻に月給8万円を渡していることは先に述べた。国税当局は個人が贈与を受けても年間110万円以内であれば非課税としている。こうように定着した社会規範を目安に、司法は、家族間の少額の金銭授受に対して介入を自制するべきではないか。舅や姑が、面倒を見てもらっている息子の嫁、つまり義理の仲である家族に様々な名目で金を渡すのは世の常であり、「法律は家庭に入らず」という古代ローマの格言は法哲学の基礎だろう。

 ③百沢の家裁に対する報告書の記載に不備があったにせよ、素人の所業であり家裁の職権で是正させれば済む話である。

当事者に弁護士も選ばせない 
「俺様司法」

 実は、百沢は後見人としての権利を剥奪されないように対応策を提案していた。事務分掌の審判を言い渡される前の2007年8月に、旧知の弁護士と連名で家裁八王子支部に宛て意見書を送っている。

 ――成年後見人百沢力は、実母百沢トシ子の成年後見人として、妻の協力の下、誠心誠意その職務を遂行してきました。今後は、当職も随時助言を行い、又、支払明細・通帳の残高の照合等につきましては、税理士O氏に作成を依頼することとしております。

 ここに参考として、同税理士の作成にかかる平成18年度と平成19年度分前記の収支報告書を添付致します。従って、新たな成年後見人の選任は、必要性がないものと考えます――

 妥当な提案であり、試行させておけば良かったと思うが、審判官は蹴った。在野の知恵を汲み上げる度量を欠いており、「俺様司法」とでも呼びたい。
(敬称略、PART2に続く)

【シリーズ・成年後見制度の影と光】
PART1:家裁に「左遷」された成年後見人
PART2:成年後見パートナー弁護士との泥沼関係 
PART3:是正される「専門職」に偏重した成年後見人


  

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