VICSセンターのホームページ上では、情報提供が可能な道路の距離を「高速道路、国道及び都道府県道などの基本道路の総延長約38万キロのうち、約18万キロ」としている。これは、「情報収集源である車両感知器の設置は、主に高速道路や国道、主要な地方道などに限られる」(太田社長)からだ。高速道路を降りて、予期せぬ渋滞に巻き込まれるのにはこうした背景がある。
加えて、前出とは別のナビアプリの技術者は「VICSがあるはずの道路から、感知器の老朽化などが原因で、情報が上がってこないことも多い。渋滞の判断も定点観測で行うものが多いため、トラックがセンサーの下に停車しているだけで渋滞と判断してしまう」と精度の低さを語る。また、都市交通に詳しい計量計画研究所の牧村和彦・理事兼研究本部企画戦略部長は「定点の感知器は低速走行に弱く、渋滞測定を誤ることも分かっている」と指摘する。
また、出発地点でカーナビが受け取れるVICS情報は、FM多重放送によって提供されるが、隣接県までの道路交通情報しか受け取れず、長距離ドライバーなどは目的地までのすべての道路交通情報を考慮したルートを検索することはできない。
こうしたJARTIC、VICSの「不備」を補い、発展してきたのが、民間事業者だ。
センサーを用いて
道路規制を車が見つける
ヤフーの提供するナビアプリ「ヤフーカーナビ」は14年7月のサービス開始以来、累計1400万ダウンロードを達成している。
ルート検索においてはJARTICから購入している渋滞情報を優先しているが、「JARTICのデータは全ての道路で正確とは言えず、抜け道が混んでいないか、などがわからない。それをプローブデータで補っている」(齋藤聖隆・メディアカンパニー検索統括本部サービスマネージャー)という。プローブデータとは、アプリ利用者の位置情報や時間などの情報で、これにより車両の移動速度が分かり、道路の混雑状況なども把握できる。サービス開始から4年がたち、「JARTICのデータとほぼ同じ範囲を自社のプローブデータでカバーできている」という。
同じくナビアプリ「ドライブサポーター」など経路検索サービスを提供するナビタイムジャパン(東京都港区)の小田中育生・開発部部長は「有料版のナビゲーション機能を使ってもらえば、30分程度の旅行区間なら一般道であっても、到着予想時刻のプラスマイナス5分以内に90%以上の車両が到着している」と胸を張る。
プローブデータも収集が進んでいる。16年にナビタイムジャパンが発表した論文では、一般国道における旅行時間(一定区間を車両が通過するためにかかった時間)のカバー率をVICSとナビタイムジャパンのプローブデータで比較している。その結果、一般国道について、VICSのカバー率は14%だが、ナビタイムジャパンでは79・7%。主要地方・県道にいたってはVICSが4・7%のところ、ナビタイムジャパンは46・6%という結果だ。