カーナビにしたがい高速道路を降りると、一般道で予期せぬ渋滞に巻き込まれ、到着時刻が大幅に遅れる─。
ドライバーなら誰しもこうした経験をしたことがあるのではないだろうか。カーナビには渋滞情報が配信されているのに、なぜこのようなことが起きるのか。その背景には今から20年以上も前に導入された道路交通情報の配信体制が「限界」に差し掛かっていることがある。
車載カーナビに渋滞情報などを配信しているのがVICS(道路交通情報通信システム)だ。VICSは1996年、東京・大阪圏からサービスが始まり、当時は、世界に先がけて実用化された最先端のシステムだった。VICSで配信される道路交通情報は交通管理者(都道府県警察)や道路管理者(国土交通省や地方自治体、高速道路会社)などが収集・作成したデータがもとになっている。
データとは、道路に設置されている車両感知器からの渋滞情報のほか、天候等にあわせて都道府県警がしく速度規制情報、現場の警察官などからの事故情報、工事や災害による道路管理者の規制情報などを指す。それらが日本道路交通情報センター(JARTIC)に集められ、道路交通情報通信システムセンター(VICSセンター)にも送られる。
JARTICはそのデータから作成した道路交通情報をラジオ・テレビ放送などを通じて提供する。VICSセンターは、FM多重放送や道路上に設置されている機器を通じて、各車のカーナビに情報を送る。また両者とも、スマホの交通案内サービス(ナビアプリ)にはオンラインで情報を提供している。
こうした道路交通情報提供の体制を資金面で支えるのは、カーナビを購入したドライバーと道路管理者、そして都道府県警(公安委員会)だ。
JARTICは情報提供を受ける公安委員会や道路管理者などから「業務委託金」を受け取っており、その額は約26億円(2011年度)に及ぶ。さらに、情報提供先のカーナビメーカーやナビアプリ事業者から、契約時に最低140万円を受け取り、カーナビの販売台数やスマホアプリの利用者数に応じて毎月、料金を徴収している。このためにナビアプリ会員は「毎月1人あたり利用料金のうち20円~30円」(あるナビアプリの技術者)を徴収されているという。
一方、VICSセンターは、JARTICからの委託で道路交通情報を、民間事業者へオンラインで提供しており、民間事業者からは「技術開示料」を受け取っている。その金額は「最初に支払う金額が1000万円近い場合もある。その後も毎月、開示料を支払う必要がある」(業界関係者)という。
ここで問題なのは、これだけの潤沢な資金を継続的、安定的に得ていながら「JARTICやVICSセンターから配信される情報のカバー率と精度が低い」(交通コンサルティングを手がけるトラフィックブレインの太田恒平社長)ことだ。