2024年11月23日(土)

中東を読み解く

2018年10月18日

皇太子の外遊に常に同行

 暗殺部隊の身元はほぼ特定されているが、指揮官はマヒル・ムトレブ少将。ハリド・オタイビ大佐が副官だったようだ。ムハンマド皇太子は国防相を兼務しているが、暗殺部隊の7人は治安部隊に所属し、皇太子のボディーガードである「警護隊」のメンバーでもある。しかも、MEEによると、7人の大半が皇太子やサルマン国王の外遊に同行し、影のように付き添っていた。

 とりわけ、ムトレブ少将は皇太子が今春、米国を訪問した際に同行、ボストンや国連など各地で皇太子の近くにいるところを写真に撮られている。また、皇太子の4月のマドリード、パリへの旅行でも、目撃されている。ムトレブ少将はかつてロンドンのサウジ大使館に勤務した経歴を持つ。

 トランプ大統領はサルマン国王と電話会談した後、「ならず者による殺害」である可能性を仄めかしたが、暗殺部隊に皇太子のボディーガードが多数含まれていたことは事件が皇太子の命令によるものであることを強く示唆している。しかし、皇太子が殺害まで指示していたのか、大佐らが皇太子の意向を「忖度」して犯行に及んだのかは明らかではない。

 1つの焦点として浮上しているのが、ムトレブ少将ら暗殺部隊の行方だ。2日の事件の後、その日のうちに、民間のチャーター機でイスタンブールを離れたのは分かっているが、その後の足取りは不明。サウジ当局に拘束されているのか、それとも野放しになっているのか。「口封じに消される可能性がある」(ベイルート筋)との見方もある。

ポンペオ国務長官に批判集中

 トランプ大統領は事件後、サルマン国王、ムハンマド皇太子と電話会談し、ポンペオ国務長官をサウジ、トルコ両国に派遣した。大統領は「殺害が事実なら、サウジには厳罰が待っている」などと厳しい姿勢を示したものの、その後はサウジ首脳を批判する米議会や国際世論に対し「推定有罪」だと反発した。

 大統領はサルマン国王が「事件を知らないと完全否定している」と言明、サウジとの巨額な武器契約を失いたくないとも述べ、両国関係の維持を強調した。しかし、サウジでのポンペオ国務長官の言動が今や強い批判を浴び、早期の事件決着を望む大統領には誤算だったろう。

 問題になっているのはポンペオ国務長官がサルマン国王、ムハンマド皇太子と会った際の態度だ。「殺害を命じたかもしれない人物に対して、満面の笑みを浮かべて話す姿は真相究明を求める態度とは程遠い。サウジ側に隠蔽の青信号を与えたのも同然」(米アナリスト)という批判だ。


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