2024年12月23日(月)

韓国の「読み方」

2018年10月22日

後輩たちへの助言「給料は安いよ」

 若者の海外就職を後押しする事業を行っている大韓貿易投資振興公社(KOTRA)が今年、同社の事業を通じて日本企業に就職した若者455人を対象に行ったアンケート調査がある。回答数は115人と少ないものの、なかなか興味深い内容なので紹介したい。

 まず目につくのは学歴と日本語能力の高さだ。回答者は、専門学校卒2人を除く全員が4年生大学卒以上だった。87%の人は日本で学校生活を送ったことがないと回答したのに、日本語能力は「ネイティブ並み」が22%、日本語能力試験(JLPT)で最上級となる「N1」レベルが65%だった。就職先の業種は「ITおよび情報通信」が36%と最多で、次に多いのは製造業の26%。回答者の88%が正社員で、職種はエンジニア45%、経営管理(人事や総務など)15%、国内営業13%である。単純労働ではなく、日本人と伍して働いていることがうかがえる。

 日本で就職したことに「満足」が66%、「不満足」は10%だった。日本で働く理由(複数回答)は、「海外生活を経験したい」が60%、「韓国での就職が困難」が48%など。半数近くは、将来的にも日本に残るつもりだと回答した。

 これだけ見ると日本での就職はバラ色のようだが、「日本で就職しようとする後輩たちへの助言」という自由記入での回答には厳しい認識が垣間見える。日本での女性差別や民族差別に触れるものもあるが、それ以上に目立つのは「若い社員を育てようという意識のある日本企業で働くことに魅力はあるが、おカネを期待するならやめた方がいい」という助言である。KOTRAの報告書からいくつか拾ってみよう。

 「金銭的な面では日本での就職と韓国での就職に違いはない。経験と挑戦を重視する人なら、日本での就職も一つの選択になりうる」

 「税金(と社会保障)がとても高いので、はっきり言って給料を考えるなら勧めたくない。やりたい仕事があって、経歴を積みたいと来るならともかく、おカネのことを考えるなら来ない方がいいと思う」

 「日本の初任給は安いという事実をきちんと認識してから来るべき」

 「物価は高いし、家賃も高いからおカネは貯まらない。税金を払ったら残らない」

韓国の大企業1年目の年棒は…

 では、韓国の大卒初任給はいったいいくらなのだろうか。韓国経済研究院が今年3月、売上高上位500社を対象に行った調査結果を発表した。それによると、3500万ウォン以上4000万ウォン未満(約348万~397万円)が34%でもっとも多かった。次が4000万ウォン以上4500万ウォン未満(約397万円~447万円)で25%。4500万ウォン(約447万円)以上という企業も18%あった。

 前述のKOTRA調査で入社1~2年未満と答えた91人のうち、年収350万円を超えているのは20人(22%)。韓国の大企業だったら8割近い人が初年度から3500万ウォン(約348万円)以上もらっているというのだから、日本企業の給料が見劣りすると言われても仕方ないだろう。だからこそ、韓国での就職は厳しいと言ってもいいのかもしれない。

 ちなみに、民間調査機関の労務行政研究所が東証1部上場企業を対象に行った調査として今年4月に発表した大卒初任給(月給)の平均は21万1039円である。ボーナスを入れても、韓国企業の平均には届かないだろう。

 私もソウルで勤務していた時、日本メディアで働く韓国人スタッフに言われたことがある。「やっぱり日本企業はいいよ。給料は安いけど、定年まで安心して働けるからね」。そう。超競争社会の韓国企業では、高い倍率をくぐり抜けて大企業に入社しても生き残るのが大変なのだ。サムスンの元役員からは「入社して5年もすると同期で給料に2倍の差がつくのは当たり前だ。解雇されるわけではないけれど、仕事のできない人は(居場所がなくなって)自然と消えていく。それがサムスンの競争力の源泉だよ」と言われた。

 日本企業と韓国企業のどちらがいいか。私には即答できないけれど、これが現実である。
 

  
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