2022年8月15日(月)

From NY

2018年10月27日

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田村明子 (たむら・あきこ)

ジャーナリスト

盛岡市生まれ。1977年米国に単身留学し、1980年から現在までニューヨーク在住。著書に『ニューヨーカーに学ぶ軽く見られない英語』(朝日新書)、『知的な英語、好かれる英語』(生活人新書)、『女を上げる英会話』(青春出版社)、『聞き上手の英会話』(KADOKAWA/中経出版)など。翻訳書も多数。フィギュアスケートライターとしても知られており、『挑戦者たち-男子フィギュアスケート平昌五輪を超えて』(新潮社)で2018年ミズノスポーツライター賞受賞。

「食用になる植物の採集ウォーキングツアー」とは?

 ではこの公園に生えているものを、勝手に取って食べてしまっても良いものか。というのは実は微妙なところ。これを身をもって体験した人がいる。

 ニューヨークではちょっとした有名人の「ワイルドマン・スティーブ・ブリル」という人物がいて、毎週末にニューヨーク市内および近郊各地の公園で「食用になる植物の採集ウォーキングツアー」を主催している。

 食用キノコはもちろん、木の実や、身近な雑草も実は食用になることを教えてくれる、興味深いウォーキングツアーだ。

 若い頃はヒッピーだったに違いないスティーブが、1986年にセントラルパークでこのツアーを引率中、参加客のふりをして紛れ込んだパークレンジャーに逮捕されたのはちょっと有名な話で、ニューヨークの地元紙に「マンハッタンを食べた男」と大きく報道された。

 だが彼はそこでへこまず、平均的アメリカ人は野生の植物に対する知識が乏しいこと、一般人に自然にもっと親しんでもらうための自分のツアーのメリットを主張した。

 そして公園管理局は一転してこのワイルドマン・スティーブを公式ガイドとして雇うことになったのである。

 現在のスティーブはまたフリーランスの立場に戻ったが、セントラルパークでのツアーは続けている。そして植物の採集時には必ず、「また茂るだけの量を残すこと」を徹底させていて、公園管理局は彼のツアーを黙認しているのだ。

 本来は、セントラルパークでの無許可の草木の採集はもちろん禁止されている。それでも例外はあって、落ちてしまった木の実を拾っても咎められない。秋になるとイチョウの木のふもとに中国系、韓国系のアジア人ファミリーが銀杏を拾いに集まって来るが、パークレンジャーたちに注意をされている様子はない。

 キノコも、ほっておけば腐って溶けてしまうだけ。枝を折るような行為とは違って、よほど乱暴に掘り起こさない限り、キノコを採っても自然環境にダメージを与えるわけではない。だから、個人でちょこっといただくくらいなら、恐らくパークレンジャーに咎められることはないだろう、と予想している。保障できないですが。

一般のアメリカ人は
野生のキノコを採って食べる習慣はない

 もっともこの舞茸は、ちょこっといただくには、あまりにも大きすぎた。この大きさになるまで誰も触った気配もないのは、スティーブの長年の努力にもかかわらず、一般のアメリカ人にとって野性のキノコを採って食べるという習慣がないためである。

 だがキノコを食べないわけではない。一般的なマッシュルームや、ポートベロと呼ばれる大きなキノコなどは、アメリカでも料理によく使われる。またお洒落なフレンチレストランなどに行くと、近頃はMaitakeがきちんとメニューの中に出てくる。肉や魚の添え物としてソテーなどにして使われていることが多いようだ。舞茸にはHen of Woodsという英名があるが、最近はMaitakeとそのまま日本名が使われていることが多い。

 高級レストランの料理に使われているMaitakeが、ここに生えているんですよ、とそこらにいるニューヨーカーに教えてあげたら、どんな顔をするだろうか。

 もっともこの舞茸は、写真だけ撮ってその場に残してきた。セントラルパークでは犬の散歩をする人も多いだけに、さすがに採るのがためらわれた。

 そして正直に言えば、先週ニューヨーク近郊の山で採ってきた20キロ分の舞茸が、まだ消化しきれずに筆者のキッチンの冷蔵庫に眠っているのである。

自宅にある大量の舞茸

 ホントに、今年は豊作だった。

  
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