若者の目に映る「無益な対立」
つまり、長らく選挙のたびに噴出したテーマである「台湾か、中華民国か」「統一か、独立か」といったテーマは、もはや若者たちの投票行動を左右する最優先の議題ではなくなっているということだ(一方で、中国の台湾侵攻への危機感が薄いという欠点もあるが)。
むしろ、彼らにとっては民進党と国民党が自分たちの手の届かない高みで、国民の日常生活に直結しない無益な対立を繰り返しているようにしか見えず、政治への嫌悪感やあきらめを生み出した。この時期、台湾の経済的な失速とも相まって、卒業を控えた学生たちは「卒業即失業」などとうそぶいていたが、二大政党が神学論争を繰り返し続けた結果、若者たちは「民進党か、国民党か」という二大政党離れ、ひいては政治離れを起こした。賃金向上や景気浮揚、就職問題、失業率改善など、目の前の問題を語ってくれない政治に背を向けるのは当然であろう。
そして、奇しくもそこに登場したのが、政治的にはむしろ素人の柯氏だったわけだ。柯文哲市長は就任して間もなく4年。歯に衣着せぬ発言で非難を浴びたりすることも多いが、特に若者からの支持率は揺らいでいない。これは、若者たちがそれまでの政治や政治家に辟易していたことの裏返しといえるだろう。今年5月にリンゴ日報が行った年齢別の支持率調査では、20代と30代の有権者から実に55%という圧倒的な支持を得ている。
「台湾の未来図」を描けているか
そしていま、台湾はふたたび政治の季節を迎えている。11月24日、「九合一選挙」と呼ばれる統一地方選挙の投票日までいよいよ残り一ヶ月を切ったからだ。「九合一選挙」とは、知事クラスの規模を持つ台北市長や新北市長などの「直轄市長」から、いわゆる町内会長にあたる「里長」まで、9つのレベルの首長や議員を選出するための投票を一度に行うことからそう呼ばれている。
また、今回の選挙は2016年5月に発足した蔡英文総統、ひいては民進党政権の「中間テスト」的な意味合いを持つとともに、2020年1月の総統選挙に向けての試金石となるため、俄然国内外からも注目を集めるわけだ。
台湾が中国とは別個の存在を維持していくのか、それとも中国と接近する方向に進むのか。その舵取りをまかせる政権を選ぶための政策論争はもちろん必要だ。むしろないがしろにされてはならない最重要なテーマである。
しかし、それとは別に、民進党は政権発足後、若者たちの生活を潤し、若者たちが将来に夢を抱けるような政策を進めてきただろうか。国民党は、下野してからというもの、若者たちの支持を取り戻せるような政策を掲げてきただろうか。台湾の若者たちが政治に何を望んでいるのか、という現実的な問題に真摯に取り組み、台湾の未来図を提示できる候補者でなければ、若者の心を掴むことはできないだろう。
1977年栃木県足利市生まれで現在、台湾台北市在住。早稲田大学人間科学部卒業。大学卒業後は、金美齢事務所の秘書として活動。その後、台湾大学法律系(法学部)へ留学。台湾大学在学中に3度の李登輝訪日団スタッフを務めるなどして、メディア対応や撮影スタッフとして、李登輝チームの一員として活動。2012年より李登輝より指名を受け、李登輝総統事務所の秘書として働く。
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