『我はコック(厨師)なり』
9時半過ぎに部屋に引き上げようとすると、同年代の短髪の中年おじさんがキッチンに入ってきた。見事な手つきで楽しそうに中華料理を作り始めた。あっという間に炒め物とチャーハンとスープが完成。この御仁は1955年生まれの62歳。広州出身のプロのコックであった。ブリスベンの大きなホテルで働いているという。2週間前に広州から来たが、適当なアパートが見つかるまでホステルに逗留する予定だ。
仲間からオーストラリアのコックの賃金が非常に高いと誘われて出稼ぎに来たという。元々広東省の田舎の出身。長年中華料理の本場である広州でコックとして働いてきたという経歴だ。明るい性格で話していると楽しくなってくる御仁であった。広東・福建など中国華南地方では出稼ぎや海外移住という歴史的に華僑の伝統がある。62歳の飄々とした生き様はそうした華僑精神を体現しているようだった。
中国語の道路標識、「紅灯、必須停」(赤信号では停車すべし)
12月6日。グレートオーシャンロードをローヌ(Lorne)からアポロベイ(Apollo Bay)を目指して海岸線を走っていた。前方が工事中のようで道路脇に臨時の信号が設置されていた。近づいてよく見るとなんと中国語(中華人民共和国の公式簡体字)で『赤信号では停車すべし』と大書してあった。その後、タスマニアでも同様の中国語道路標識を見かけた。
今回オーストラリアを自転車旅行して実感したのは、レンタカーを運転する中国人観光客が急増していることである。こうした道路標識は工事業者か道路管理者が中国人ドライバー向けに注意喚起したものであろう。
私の経験では中国国内での平均的ドライバーの運転マナーは余り褒められたものではない。中国人ドライバーの運転マナーを懸念したオーストラリアの関係者が中国語表記の標識を設置したのであろう。
ちなみに中国では運転免許証はお金を出しさえすれば、正規の試験を経ずに取得することが可能と聞いたことがある。15年前の話ではあるが、パキスタンの業者に金を払って取得したパキスタン政府発行の運転免許証を中国本国で中国政府の運転免許証に書き換えたと取引先のマネージャーが得意そうに語っていた。
⇒第8回に続く
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