今回判決について、韓国主要紙の社説等は、日韓関係への悪影響を心配するが、具体的な解決策は示していない。解決策など見つからないのだろう。文在寅政権も、従来政府が取ってきた法的な立場と齟齬するので、「立場を整理中」と対応に苦慮しているように見える。韓国における日韓問題が夙(つと)にそうであるように、青瓦台と外務部は当事者能力を失っている。文在寅の青瓦台は黙りを決め込み、知日派の李洛淵首相に丸投げしているのが現状である。そもそも、文在寅の青瓦台は、今回裁判を間接的に促進してきた責任を免れない。文政権までは裁判は止まっていたが、今回判決は、文政権が任命した金命洙大法院長の下で出された。11月9日付けの中央日報(電子版)は、韓国の検察は、「徴用工訴訟」を遅延させた疑いにより、2011年から2014年まで法院行政処長(最高裁判事)を務めた車漢成氏を召還、調査したと報じている。他の法院行政処長経験者も調査する方針だという。
韓国では、いまだに、日本は歴史を直視すべし、日本は未来志向の「大胆な措置」を執るべし、などといった議論が見られる。しかし、2015年の慰安婦合意は、「大胆な措置」以外の何物でもない。同合意のような内容と提供金額は、当時、日本の国内政治上可能かどうか疑いを持ちえたほどであり、適当かどうかさえ議論の余地があった。そうした日本側の「大胆な措置」が今や文在寅政権によりズタズタにされている。一部に見られる「日本には何をしてもいい」といった風潮をやめ、疲労感のない日韓関係にすべきである。それには韓国の指導者のリーダーシップが不可欠である。
しかし、文在寅は、8月15日の光復節演説でも明らかなように、親日派を交代すべき旧主流派とみなし、北朝鮮への宥和的姿勢を隠さない、典型的な韓国の進歩派の歴史観の持ち主である(9月10日付け本欄『文大統領の光復節演説に見る進歩派の歴史観』)。10月には、済州島で行われた国際観艦式に際し、海上自衛隊に対し旭日旗(自衛艦旗)の掲揚自粛を要請、日本側がこれを拒否して観艦式に参加しないという事態となった。対北朝鮮戦略では「日米韓の協力により対処」というのが常套句だが、文在寅政権の韓国との関係を修復できる見通しを立てることは難しい。
ただ、日本側の強い反発に韓国は驚いており、外交上、経済上の影響を懸念する声も上がっている。特に、経済関係の悪化による韓国経済への影響が顕在化するようなことがあれば、文在寅政権への国内の支持が揺らぐ可能性はあるかもしれない。国際法の筋論に加え、そうした面からも、日本政府が進めている、韓国による国際的ルールの軽視を国際社会に広く示していくという強い対応は、適切であると思われる。
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