混迷の要因2:保守党
現在の混迷の最大の要因は、メイの首相としての力量不足にある、というのが筆者の見解である。しかし、足下の保守党を統一できないのはメイ一人の責任ではなく、保守党の体質そのものにも大きな理由がある。
ここでは現状の細かな説明は避けるが、12月12日のメイに対する信任投票は、「大陸欧州とどう向き合うか」という、保守党内での45年にわたる根深い路線対立が改めて表面化したものであることだけ、指摘しておきたい。
英国は大議論の末、1973年にEUの前身である欧州共同体(EC)に加盟した。以来、欧州との距離感をめぐり、保守党内では、親欧州派と欧州懐疑派のせめぎ合いが続いてきた。
特に、ブレグジットで強硬離脱派のよりどころになっているのは、サッチャーが在任中の1988年9月、ベルギー・ブルージュ市のヨーロッパ・カレッジ(EC大学院)で行った「ブルージュ演説」である。
ここでサッチャーは、欧州統合は「独立した主権国家間の意欲的かつ活発な協力」が最善の道であると指摘し、「権力がブリュッセルに集中し、任命制の官僚たちによって決定される」ことを厳しく批判した。
後の回顧録で、サッチャーはこの演説を行った背景について、「英国の民主主義、議会の主権、慣習法、また、我々の伝統的な公正感や、自分たちのことは自分たちのやり方で対処する能力は、非常に異なった伝統に基づいた、遠くにいる欧州の官僚主義の要求に隷属させられてしまうのであろうか。私はこれ以上、欧州の『理想』を聞くことに我慢がならなくなってしまった」(「サッチャー回顧録」日本経済新聞社刊)と説明している。
英政府やイングランド銀行(中央銀行)、そして英国内の大半のシンクタンクの分析が「EU離脱後の英国経済は縮小する」と警告しているにもかかわらず、ブレグジットをめぐる支持がそれほど落ちないのは、こうした国家の存立にかかわる政治信条がなお幅広く根付いているためといえる。
毎年の保守党大会では、「ブルージュ・グループ」というシンクタンクがイベントを開き、現在ではブレグジット推進の中核となっている。ただ、現在の強硬離脱派は、この国家存立の問題と移民排斥などを結びつけて先鋭化しており、一切の妥協を拒むかたくなな姿勢がブレグジット交渉の障害となっている。保守党執行部、とりわけ党首のメイがこの問題で党内の分裂を緩和できない限り、ブレグジット進展の展望は暗い。
混迷の要因3:労働党
混迷の要因として最後にあげるのは、最大野党・労働党の迷走である。この党内でも、離脱を推進する派閥と、EU残留を目指して国民投票の再実施を目指す派閥の対立が激しいが、党首のジェレミー・コービンは収束に動く気配がない。
コービンは、メイがEUと合意した離脱協定案について、「メイがまとめた案はすべて反対」という理不尽な党利党略の路線を取り、現実的な代案を示していない。
今の労働党の最大の目標は、ブレグジットの解決ではなく、ブレグジットをめぐる政治混乱を機に総選挙に持ち込むことである。国の将来を左右する大問題に関し、野党第1党が建設的な代案を示せない状況は、危機的である。
2019年も展望が見えない
12日の信任投票ではからくも勝利し、今後1年間は党内から挑戦される恐れはなくなったメイだが、離脱をめぐる見通しはかなり暗い。
結局、時間切れになり、3月29日の離脱のXデーを延期、
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