脇役たちの群像が大きな魅力に
今回のドラマの大きな魅力は、主人公たちが遭遇する事件にからむ脇役たちの群像にある。
萬平(長谷川)は、戦時中に軍隊の調理の野菜などを簡単に切断する、機械の発明で起業家として成功を収める。経営を任せた加地谷圭介役の片岡愛之助が、原材料の金属を横流しして、その罪を萬平になすりつける悪役で魅せた。
この時に萬平に近づいてきた世良勝夫役の桐谷健太の縦横無人な演技も見ものである。大阪経済界の大立者の三田村亮蔵(橋爪功)が、萬平の将来性を見込んで出資すると、手のひらを反して自分も出資するという。ところが、そのカネは萬平が戦後、苦労して塩製造業に進出した製品をだまし取るようにして、闇に流した利益金だったのである。
「私は武士の娘です」が口癖の福子の母・今井鈴役の松坂慶子も味のある演技もみせている。彼女の口癖は、モデルの仁子を描いた『チキンラーメンの女房』によれば実話である。
塩製造業から、栄養食品の「ダネイホン」製造をてがける若者たちの群像も魅力的だ。いまや若手俳優を代表するひとりである、瀬戸康史は復員後に鈴の次女・香田克子(松下奈緒)の家に泥棒に入ったところを真面目に働くように説得されて、萬平の片腕となる。克子の長女であるタカ(岸井ゆきの)と結婚の約束をするまでになる。
ほぼ事実をベースに脚色された、数奇な運命
萬平の人生は、事業に成功したかと思うと、投獄にあうという数奇な運命に翻弄される。人生の谷にたたきおとされる萬平のエピソードは、ほぼ事実をベースに脚色されている。
軍需物資の横流し事件では、憲兵隊に拘束される。ホテルに勤務していた福子が顔を知っていた、大阪財界の三田村(橋爪)に頼み込んでなんとか、保釈される。百福の『魔法のラーメン』によると、横流しした共同経営者と憲兵がグルだったと推測している。
戦争直後の萬平は、進駐軍との戦いとして描かれている。塩製造業の若者が、元軍事施設だった工場の床下から手りゅう弾をみつけて、その爆発力をつかって海で魚を採っていた。それを進駐軍にたいするクーデターの準備活動と疑われて、萬平をはじめ従業員全員が逮捕された。
留置場の看守役の二世・チャーリー・タナカ役で、YouTube などのSNSを通じた音楽活動でブレイクした、岡崎体育が関西弁を駆使した怪演だった。
第12週に至っても、萬平は脱税容疑で進駐軍に逮捕され、重労働4年と7万円の罰金を科課されたうえ、刑務所に収監の身となる。刑務所仲間の剛田一隆役には、イッセー尾形が、罰金を支払うための会社整理を引き受けた、弁護士の東太一役に菅田将暉が、その事務所の所員・尾崎多江役に渡辺真起子が起用されている。
若手俳優を代表する菅田将暉の活躍はいまさらいうまでもない。個性派女優の渡辺を起用する映画監督のなんと多いことか。今年も「友罪」で瀬々敬久監督、「きみの鳥はうたえる」では三宅唱監督のいずれも実力派監督のカメラの前に立っている。
チキンラーメンとカップヌードルの発明に向けて、さらに実力派、個性派俳優たちが次々に出演してくるのが楽しみである。
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