NHK連続小説「まんぷく」は、日清食品の創業者である安藤百福と妻・仁子の人生を描いたフィクションである。タイワニーズ(台湾人)の百福は日本人発明家の立花萬平(長谷川博己)となり、仁子は今井福子(安藤サクラ)である。
日本統治下から国民党政権下へ……台湾人がたどった運命については、『タイワニーズ 故郷喪失者の物語』(野嶋剛著、小学館)がある。このなかで、野嶋は「日本の食を変革する」という章をたて、「カップヌードルの謎を追って」の題名で安藤百福を取り上げている。
タイワニーズとしてたどった、百福の人生については、日本経済新聞の「私の履歴書」をまとめた『魔法のラーメン発明物語』(日経ビジネス人文庫)が、自らを語って、その人生の波乱万丈ぶりは驚異である。
チキンラーメンもカップラーメンも
まだ開発されていないが……
ドラマは、第12週「絶対何とかなるから!」(12月17日~22日)に至っても、チキンラーメンは登場しない。カップヌードルもまた当然ながら開発されてはいない。
百福は、2007年1月に96歳の天寿を全うして亡くなっている。妻の仁子は、2010年3月に92歳の人生を閉じた。このドラマをきっかけとして、関係者の聞き取りなどをもとに『チキンラーメンの女房 実録 安藤仁子』(安藤百福発明記念館編、中央公論新社刊)が出版された。
チキンラーメンを百福が発明したのは、48歳のときである。カップヌードルは60歳のときである。ドラマはこの商品開発がクライマックスになるのだろう。
ラストに向かって、ドラマはまだ折り返し点を回ろうとしている地点にある。しかし、立花萬平(長谷川)と福子(安藤)に襲いかかる困難の数々と、周辺の人々の助けを借りながら谷底から立ち上がる二人の物語は、心を強く打つものがある。
主人公ふたりの資料が豊富に残され、亡くなってからさほど年月が経っていないなかで、脚本家・福田靖の手腕は際立っている。ドラマ「HERO」や「海猿」、「ガリレオ」シリーズで知られる。