”クレカ外し”で先行した
モバイル決済大国・中国
こうしたなか、日本ではクレジットカードやSuica(スイカ)などのプリペイド型電子マネーといった既存の決済方法だけでなく、スマートフォンを用いたQRコード決済などのキャッシュレスサービスが乱立している。
実際、参入予定のものも含めると、IT企業系のPayPay、LINE Pay(ラインペイ)、楽天ペイ、Origamiペイ、メルペイ、通信キャリア系のd払いやauペイ、コンビニ系のセブンペイやファミペイ、銀行系のはまペイやみずほ銀行電子マネー(名称未定)など、覚えきれないほどの新サービスが生まれている。
この中でどの決済サービスが生き残るのか。参考になるのは先行する中国の事例だ。「都市部ではすでに現金なしで生活できる」「屋台までキャッシュレス」「物乞いにもQRコードでお金をあげる」など、その普及ぶりは日本のメディアでも大きく取りあげられている。
元々、アリババグループの「支付宝(アリペイ)」、騰訊控股(テンセント)の「微信支付(ウィーチャットペイ)」などは、個々人の銀行口座直結の仕組みを整えて、クレジットカードネットワークを介さずにサービスを提供し、手数料を圧倒的に安くおさえた(零細事業者や個人間の送金ならば手数料無料)。
そこに2013年の法改正によってリアル店舗での決済が可能となり、QRコード決済が普及。前出の経産省の報告書によれば、中国のキャッシュレス決済比率は60%に達している。また、中国インターネット情報センター(CNNIC)の集計によれば、2018年6月時点で5億6608万人がスマートフォンによる決済を利用している。
中国では単に財布がスマホに置き換わっただけではない。ライドシェアやシェアサイクルを筆頭とするシェアリングエコノミーは、サービスの利用から決済までを可能とするQRコード決済アプリを前提としている。アリペイ、ウィーチャットペイなど決済アプリの中にはその他にも公共料金支払い、ネットショッピング、保険購入などさまざまなサービスへの導線が用意してあり、各種サービスのハブとなっている。
モバイル決済を導入している事業者側に目を向けると、QRコード決済の支払いは着金までの時間が短く、資金回転率が高まる。さらにウィーチャットペイでは買い物客が自動的に店舗のSNSアカウントをフォローするようになっており、事業者は利用者に割引クーポンを送ることができるなど、リピート買いを誘発することも可能だ。
世界的に注目を集めるのがモバイル決済で集めたデータのフィンテックへの応用だ。アリババグループやテンセントはユーザーの決済、ネットショッピング履歴、交友関係、移動記録などきわめて広範なデータを持つ。そのデータを基にユーザーの信用を点数化するサービスが信用スコアだ。融資を申し込むと、AI(人工知能)が自動的に可否を判定するため、スピーディーな融資が可能だ。
アリババグループの個人事業者向け融資サービスのキャッチコピーは「3・1・0」。スマホで融資申請を入力する時間が「3分」。すると「1秒」でAIが融資の可否を判定する。そのため、融資審査に関わる人は「0人」というわけだ。トラック運転手がガソリン代の不足を一時的に立て替える、小売店がセール向けの在庫確保に利用するといった機動的な利用が広がる。融資履歴以外の情報も加味して信用評価を行うため、これまで金融サービスを受けられなかった層も活用できる。