2020年の東京オリンピック開催を控えて、法務省、国土交通省は増加する外国人観光客を含めて効率的に入出国手続きを進めるための解決策として、10月18日から羽田空港国際線ゲートの日本人用の帰国手続きに顔認証システムを初めて導入した。パスポートのICチップに登録されている顔写真と、帰国ゲートで撮影した写真を照合させて本人かどうかを確認する。
アップルが採用した顔認証
米国のアップルは9月に指紋認証を搭載したスマートフォンの新商品「iPhone8」を発売し、11月からは、同社として初めて顔認証を搭載した最新機種「iPhoneX(テン)」を発売した。これまでスマホには指紋認証を搭載してきたが、三次元で立体的な顔認証ができることで精度が大幅に向上したことから、「テン」では指紋から顔認証に変更した。顔認証は日本ではNECが得意としてきたが、採用されたのは台湾メーカーの技術だったといわれる。
生体認証には、指紋、虹彩、顔、静脈などがあり、それぞれ一長一短がある。指紋認証は100年以上の歴史があり、汎用部品が多くある。そのためシステムのコストを安くでき、低価格競争になりがちだ。また、指紋の跡が残るため偽造される恐れがあり、指が濡れたり傷がつくとエラーが出ることがある。虹彩は精度は高いが、光が当たると誤差が出る欠点がある。顔は変装による偽造の恐れがあり、顔を隠す習慣のあるイスラム圏の女性には使えない。静脈は精度は高く、偽造の恐れはないがコストが相対的に高い(下図)。
こうした特徴が市場にも表れている。中国やインドでは数億人が指紋認証を利用しているなど、新興国ではコストの安い指紋が普及している。そのため、世界市場でみると、16年で指紋が72億ドル(米国の調査会社マーケッツ・アンド・マーケッツ調べ)と最も大きく、静脈は6億ドルにすぎない。
一方で、日本市場では、17年予測で静脈が120億円(富士経済調べ)に対して、指紋は20億円。日本勢では日立製作所、富士通が「静脈認証」に力点を置いている。ヘモグロビンが血管の中を流れるパターンを認識する静脈認証の技術は日本勢が特許を押さえており、外国勢が追随するのは難しいという。
富士通は「米国、ブラジル、韓国など世界60カ国の銀行などで、約7000万人が手のひら静脈の認証技術を使っている」と言うが、世界全体での認知度はまだ低いのが現状だ。