2024年12月9日(月)

青山学院大学シンギュラリティ研究所 講演会

2018年6月20日

 シンギュラリティを引き起こすには現在よりも、もっと進化したAIが必要である。ではAIを進化させる具体的な手段とは何か。それは人工知能の最先端をいくディープラーニングに違いない。AIという言葉が登場して60年あまり経って、ようやく人工知能は特定の範囲に限って学習するエキスパートシステムから、汎用人工知能を実現するディープラーニングに取って代わろうとしている。

 Google、Microsoft、Facebookが、いち早くディープラーニングを事業で生かすため研究を開始している。2012年に、この研究を有名にしたのが、GoogleがYouTubeにある画像をランダムに1000万枚取り出し、これは1000台のPCで3日間かけて学習した結果、AIが画像からネコを認識できるようになったというニュースである。ディープラーニングと切っても切れないのがビッグデータである。

 データの量が多ければ多いほど、規則性や関連性を発見する精度を上げることができるのだ。そこでビッグデータを持つ企業が、ディープラーニングの研究に邁進している。日本では近年の過度のプライバシー保護思想のため、ビッグデータを研究目的に使うことが難しく、この分野では遅れを取っている。では世界一人口が多い国、中国共産党が統治する中国はどうなのだろう。

 コンピュータサイエンスが専門で、上海大学系ベンチャー企業として、ホテム向けサービスロボットの開発販売を行い、その一方で同大学で学生のためのインキュベーション(起業支援)の講義もおこなっている柴国強氏が解説する。

柴国強(チャイ・グオチアン)氏。上海立名智能科技有限公司 董事長。1963年生まれ。上海大学卒、コンピュータサイエンスの教員を経て日本の経団連のプログラムで複数の日本企業で研修。その後ゴールドマンサックスに入社東京、ニューヨーク、ロンドンで計11年勤務。その後帰国し、上海大学系のベンチャー企業を立ち上げ現在に至る。上海大学では学生向けにインキュベーションの講義も受け持っている。(写真)Naonori Kohira

中国ではGoogleでなく「百度」がビッグデータ

 中国ではGoogleが使えないので、百度(バイドゥ)をビッグデータとして使います。インターネットにアクセスする最初のインターフェイスは、PCのキーボードとマウスでしたが、我々はその時代からモバイルフォンの研究を始めていました。そしてこの先、10年は音声認識の時代だと考えています。百度を使えばビッグデータの解析はできます。例えば2016年に「人工知能」という言葉を検索した人の数が、2017年には600倍に増えていることが分かります。しかし、中国にあるビッグデータは百度だけではありません。

 ビッグデータにも多様化の時代が訪れようとしています。中国のBAT、つまり検索のバイドゥ、買い物のアリババ、ウイチャットのテンセントとさまざまな企業が登場して来ました。さらに、これからは、それだけにとどまらず、我々のような個別のシステムも一つインターフェイスとしてビッグデータの一端をなすことになります。この傾向はこれからも強まると思われます。

中国人の個人情報に対する考え方

 中国の個人情報は政府の管理下にあります。国民は個人情報に関して日本ほどセンシティブではありません。個人情報の流失は、企業からはありましたが、政府と警察のデータベースから流失したことはありません。そのような側面もあり民衆は政府を信頼しています。警察は13億人分のデータを持っています。ホテルに宿泊するために必要な本人確認には、このデータベースにアクセスしています。実際におこなっているのは、警察の関係会社に相当する本人確認専門の会社であり、そこが本人確認をおこなうと同時に、どのホテルのどの部屋に泊まっているかというデータを警察に送っています。我々はこの会社と提携して全ての過程を自動化するインターフェースの作成に成功しました。

7万人のスマホユーザーがキャッシュレスで買い物

 中国は偽札が多いから、キャッシュレス化が進んだという人もいますが、私には、それが原因とは思えません。お金の流れが透明化することが重要です。ある人に莫大なお金が振り込まれたら、警察にもすぐに分かるので、その現金は何処から来たということになり、お金の流れを簡単に調べられます。さらに税務署も不要になります。お金を支払った時点で課税すればいいのです。脱税もなくなると思います。これが中国政府がキャッシュレスを推進する理由です。このように電子化が進んでSNSが盛んになってくると、電子デバイスを通して交信する情報は全て社会的に透明化されているという前提で生活する必要が出てきます。


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