2024年11月16日(土)

青山学院大学シンギュラリティ研究所 講演会

2018年5月3日

青山学院大学シンギュラリティ研究所の設立を記念した講演会の内容を、6回にわたり掲載していく。第1回は、「シンギュラリティに生きる、松下幸之助」と題して、元米国松下電器(現・パナソニック)社長・会長、グローバル戦略研究所所長などを歴任した岩谷英昭氏(ピーター・ドラッカー大学院特別顧問)が、4月22日に講演した内容を紹介する。

岩谷英昭氏:1945年岡山県生まれ。経営コンサルタント。1968年、松下電器(現・パナソニック)に入社。米国松下電器社長、会長、グローバル戦略研究所所長などを歴任。ピータードラッカー大学院特別顧問。東北財経大学(中国)客員講師。東北財経大学(中国)客員教授。(写真・NAONORI KOHIRA)

「すでに起こった未来」から推察するシンギュラリティ

 シンギュラリティについて、私もそんなに詳しいことは分かりません。今日の講演を聞いたら、それが誰かに説明できると思って来た方には申し訳ありません。また、ここでIoTやICOの話をするわけではありません。どんな時代が来ても変わらないものがある。それをこれから説明したいと思います。

 まず、スピルバーグ監督の最新作『レディ・プレイヤー1』の予告編を見ていただきましょう。「想像が全て現実になる街、オアシス。何でもできる、どこへでも行ける」オアシスというのは超リアルなVRワールドです。今までは空想の世界はアニメーションで、現実世界は現実の映画で描かれましたが、今回は空想と現実が極めて近い所に融合して描かれています。スピルバーグ監督は以前から、こういった手法が得意で重さ3トンというありえない巨大サイズのホオジロザメに人間を襲わせた『ジョーズ』を製作して、全米の海水浴客を怯えさせていました。『レディ・プレイヤー1』はこれの未来版ですね。

 未来を語る上で忘れてはならない名前が、2045年にシンギュラリティの到来を予測したレイ・カーツワイルです。彼の論説によれば、AIが進化を続ければ想像できないような長寿を得るとか、人間の生活も一変して、先ほどの映画と同じように想像が現実に思える超仮想現実世界が訪れるそうです。私は1年のうちの数ヵ月を海外で生活していますが、アメリカでは自分ではクルマを運転せずに「Uber」を利用しています。「Uber」こそ現在、見られる未来の形だと思います。

 知らない方のために簡単に説明しますが、例えば青山学院前の正門に立ってスマホで「Uber」を起動して、配車を依頼するとGPSで調べて来てくれます。また、品川駅に行きたいと決めておけば事前に料金が分かります。車種も高級車、普通車、2人で乗るのか、1人で乗るのか。ドライバーの写真も出てくるので、女性の方は女性ドライバーを選ぶこともできます。また、客がドライバーを評価すると同時にドライバーも客を評価する相互評価を実施しています。支払用のクレジットカードが日本で発行されたものなら、アメリカにいても乗車5分後には自動的に日本語の領収書がプリントアウトされます。このようにシンギュラリティは身近なところから始まっているのです。

 私が所属するロス郊外にあるピーター・ドラッカー大学院のピーター・ドラッカーさんが生前によく口にしていたのが「すでに起こった未来」(Future that has already happened)という言葉です。ピーター・ドラッカーさんはマネジメントの発明者で、未来学者とも呼ばれていました。「すでに起こった未来」、つまり未来は現在に内包される、「故きを温ねて新しきを知る」ではありませんが、未来を知るには過去を振り返らなければなりません。

 私が務めていた松下電器、現・パナソニックには偉大なる未来学者とも言える松下幸之助がおりまして、彼はいろいろなことを50年前から言っております。例えば観光立国日本、富士山を自分の手で作ろうとしたらどれぐらいの労力が必要になるのか、瀬戸内海を一から作るためにブルドーザーで地面を掘り起こして水を入れて作ろうとしたら、どれぐらいの予算と年月が必要なのか、日本にはそれがあるのだから、世界に見せればいいと語っていました。過去の人であろうと未来を持つ、自分で未来を作っていこうとする意気込みを持つ人であれば、どんな時代が来ても慌てない。何がAIにできて、何が人間にしかできないのか、それを皆さんにも学んでいただきたい。

 長い前置きになりましたが、本日のコンテンツは歴史的背景、つまり過去10年間、日本は大変苦しい時代をおくってきました。特に私が属するエレクトロニクスの世界では、何が起こってきたのか? それを一度、掘り下げ、その後でシンギュラリティが起こる2045年までに、どんな世界が訪れるのかをお話ししたいと思っています。


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