2024年12月19日(木)

青山学院大学シンギュラリティ研究所 講演会

2018年5月3日

伝説の「熱海会談」から見えてくるもの

 現実的な話に戻りますが、松下幸之助とシンギュラリティの関係は、具体的には何もおこなっていません。ですが、彼がおこなったいろいろな行為の中で、今からでも大切だという話があります。そのひとつが「熱海会談」です。昭和39年夏、高度成長から来る業界の過当競争、減収減益、世の中全体のキャッシュフローが悪くなりつつある時です。松下幸之助は情報を集めた結果、もう座して待っていられない。熱海に松下電器の役員と営業部長、営業所長全員、そして販売会社、代理店の社長と会長を全員、170名余りを集めて会談、つまりセールスミーティングをおこないました。

 1日目、2日目、販売会社、代理店から辛辣な意見が飛び交いました。2日目の夜になってもこれは収まりませんでした。そして3日目の午前11時、松下幸之助は突然、立ち上がって陳謝しました。今まで協力していただいた皆さんに対して恩返しができていませんでした。これは自分の不徳のいたすところです。ポケットからハンカチを出して涙を拭きながら、頭を深々と下げたそうです。この事態を乗り切るためには松下電器の全資産を提供してでも、何とか乗り切るつもりですので、協力してくださいと頼んだそうです。すると代理店の社長があちこちから、いや、自分たちも悪かった、あなた1人が頭を下げる必要はないと、涙を流したそうです。

 日本人の浪花節全開ですが、後にも先にも参加者全員が涙を流すというのは前代未聞の出来事です。これこそがEmpathy、共感ではないでしょうか。松下幸之助は170人あまりの1人1人に向かって語りかけるように話をしたので、全員がこの状況に感動したわけです。

 Communicationはこれでいいのですが、落としどころが必要です。Commitmentですね。何をやったかと言えばクレジット会社を作って、とりあえず1000億円分の手形や債券を私が肩代わりしますと宣言しました。販売は小売店、集金は松下となりました。松下幸之助は自ら会長から営業本部長代行となり、工場から販売店までの流通過程を減らして、1年後には売上が回復して、多くの販売会社と代理店の経営が回復したのです。

 Communication、Empathy、最終的にはCommitmentという所までいったひとつの商法はシンギュラリティが起こっても変わらないと思います。これを私は松下幸之助の独特のアナログのネットワークと呼んでいます。当時の松下電器には200を超える代理店があり、その下に2万店を超えるショップ店と呼ばれる街の電気屋さんがありました。そして600万人を超える「くらしの泉会」というお得意様の会があります。このネットワークがすべて会社に直結したわけです。

 このようなことを当時おこなっていた松下幸之助には、すでに起こった未来があったのではないかと思う次第です。シンギュラリティが起こっても変わらないもの、AIにはできず人間にしかおこなえないことがきっとあります。それが何かをこれからの6回の講演を通じて考えていただきたいと思います。

青山学院大学 青山キャンパス
シンギュラリティ研究所開設記念
連続講演会&講義および懇親会

第2回:シンギュラリティと自動運転社会
講 師:中島 聡 
(プログラマー・XEVO Chairman)
日 時:
2018年5月13日(日)13時開演
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