ウォークマンからiPodへ
まず、日本のホームエレクトロニクスの歴史に触れていきます。1979年にソニーが「ウォークマン」の1号機を発売しました。ポータブルのカセットテープレコーダー、いや録音機能はないのでカセットプレーヤーでした。当時、議論されたのは「Walkman」という英語はおかしい。「Walkedman」ではないかと。それを聞いた盛田昭夫会長(当時)は、そんなこと関係ない、言いやすい方がいいのだと一喝。「ウォークマン」は世界でヒットするポータブルデバイスになりました。これは約40年前、AppleがiPodを発明する遙か以前のできごとです。何千万台、各メーカーを合わせれば億に近いデバイスが売れたと思います。
1976年、日本ビクターがVHS方式のコンシューマー用ビデオテープレコーダーを初めて発売いたしました。松下電器もVHSを採用して、この後、アメリカのテレビ会社はほとんど全滅しました。RCA、GE、モトローラなどがありましたが、日本、韓国、ヨーロッパの会社に買収されてなくなります。そして80年代はケーブルテレビや衛星放送が開始され、90年代はテレビが大型化してさらに衛星デジタル放送が始まります。
そして、2001年になると一旦、無くなっていたアメリカのパワーを復活させる商品がAppleから登場します。「iPod」です。これが新時代の「ウォークマン」になってしまった。ここから日本は段々と萎んでいって、2010年になると世界を牽引する商品は消えてしまい、今まで評価されなかった中国の技術力がドローンやAI搭載のロボットを生み出してきます。これから先がどうなっていくのかを模索するのも今日の1つのテーマであります。
スマホには1億円の価値がある
2045年までにどのようなことがおこるのか、それをこれから6回の講演で探って行きたいと思います。これまでのなかで、一番世界を変えた商品と言えば、皆さんのポケットの中にあるスマホだと思います。iPhoneだけでなく、いろいろなメーカーの製品がありますが、私はこれには1億円の価値があると言います。
なぜかと言えば、以前テレビ会議というシステムがありました。ビデオカメラとテレビを使って離れた場所で会議をするのですが、これを構築するにはだいたい7000万円ぐらいかかりました。それに加えてナビシステム、コンピュータ、カメラ、電卓、電子辞書、時計、ドローンのコントローラーの役目まで果たせるわけです。
私、実はiPhoneをロスの空港で紛失しました。まさに私の脳の70%が失われた感じがしました。翌日、日本でどの電車に乗ればいいのか、今日は暑いのか寒いのか何を着ればいいのか、それすら分かりません。友人の電話番号も分かりません。全部、スマホの中に入っていたのです。シンギュラリティは私の家の中でも始まっていたことをつくづく感じました。