チリに移り住んで
シルビア・メニーノ(20代中ごろ)はバレンシア大学を卒業し、弁護士の資格を持つ。未婚の母でもある。筆者は何度か取材のコーディネートを頼んだことがある。けれどもベネズエラでは法律はあってなきがごとしで、弁護士の資格を生かす道もなく、おばさんと屋台でアレパなどを売って生活費を稼いでいた。今はチリのビーニャ・デル・マルに住む。なおチリには70万人以上のベネズエラ人が移民し、外人の中では一番大きなコミュニティを擁している。
「なぜ、母国を離れてビーニャに住むことにしたの?」
「国内ではアレパを作る材料の入手も難しくなったの。それに薬もなく、犯罪者だらけの場所では子供を育てられないわ。チリに来たのはほぼ2年前ね。なぜ首都じゃないかって? ビーニャ・デル・マルに来たのは、大学の友人が先にここに来ていたから。でも彼女は家族がエクアドルのほうにいったので、そっちへ行ってしまったわ。ビーニャのほうが静かだし好きね」
ビーニャ・デル・マルはヨーロッパから観光客が集まる海辺の保養地で、この時期には世界的歌謡コンクールがある。
「一番難しいことは?」
「チリで一番難しいのは、アパートを探すことだわ、外人にはやっぱり高い。二部屋で18万ペソ(3万円前後)。でもサンチャゴだとその値段で一部屋しか借りられない」
「仕事は何をしている?」
「最初はレストランでウィトレスをしていたけど、次は骨壺を売る仕事を見つけた。でも、半年前に不当解雇されたわ。訴える予定だけど、今は暫定ビザで無理。100ドル払えば市民権が取れるけど、そのお金を溜めるのも一苦労よ。今は火災保険とか自動車保険の会社で働いている。でも給与は280万ペソ(4万8000円前後)しかない。市民権をとれば、給与も上がるし、医療もただになるわ。チリ人と同じ扱いを受ける」
「食事とかで苦労はしない?」
「チリの食べ物は好きじゃない。味が薄すぎる。ああ、海産物? それはおいしいけど、私の給与では高い。アレーナ・パンはスーパーで売っているから、アレパは家で作れる」
「チリで嫌なことは?」
「言葉が汚いというか、きちんと発音しないし、罵倒言葉が多い。それと白人の国で、ハイチ人とかを差別しているわ(ベネズエラは肌の色による差別は少ない)。でも一番嫌なのは、ドラッグね。マリファナが解禁されているから、あっちらこちらで吸っているわ。子供がサッカーの練習に行くグランドのそばでも吸っていて、いい影響がない」
「トランプの演説は聞いた?」
「トランプの演説は聞かなかったわ。ちょうど、オスカル・ペレスの母親が出ているところはテレビで見たけど」
オスカル・ペレスは元警官でヘリコプターで最高裁に手投げ弾を投下した反政府組織のリーダー。カラカス郊外の密林の中の隠れ家に仲間といるところを治安警察に囲まれ、ハチの巣のように撃たれ、殺害された。
「今後、ベネズエはどうなる?」
「2月22日にはコンサートもあるし、23日には、援助物資が入る。結局マドゥロは亡命するしかない。じゃなければ刑務所入りか、殺されるか。その後、選挙管理委員会を新たに作って、それで選挙よ。暫定大統領になってから30日以内に選挙日を決める必要があるの。でもグアイドは法律上、候補になれない。出てくるのは、今刑務所にいるレオポルト・ロペスとか、カプリ―レスとか。チャビスタは出ても票が集まらない」
「政権が変わったらベネズエラに戻る?」
「むずかしいわ。戻っても住むところもない。母親たちはコロンビアのメディジンに移ったし、おばさんたちはサンチャゴよ。それにベネズエラに行ってもタクシーやバスも機能していない。部品もないし、ガソリンもないから、動く手段がないわ。それに、チャビスタのおかげで犯罪者だらけだし、国がまともになるのには何年もかかるわ。行くとしても休暇でせいぜい1カ月くらい訪れるとか。いずれにしろこの時期は商店の略奪があちらこちらで起こるようになる。危険よ。一人で住んでいる祖母が心配。前1万ペソ(1700円前後)を送ったけど、今はそれでは肉も買えない。配給に頼るしかない。ドルがないと生活できない」