ふるさと納税で寄付を集める
イノウエ 次は、佐賀県でCSO(佐賀ではNPO法人のほか、自治会、婦人会、老人会などを含んだより広い概念としてCivil Society Organization:市民社会組織という言葉が使われている)誘致という、さまざまな地域活動を活性化させる仕組みを整えて、県外からそうした団体を呼び込もうとされています。企業誘致というのはよくありますが、NPO・NGO誘致に取り組み、非常に大きな流れを作っている佐賀県の岩永さんからご講演いただきます。
岩永 佐賀県庁から参りました岩永幸三と申します。
非営利セクターが重要性を持って活躍する社会を目指して協働や支援をしております。
佐賀県庁の「ふるさと納税」は県内のCSOに指定することが可能です。本日のコーディネーターのイノウエさんや、ファンドレックスの鵜尾さんから、佐賀県はこんなに良い仕組みがあるのになぜCSOの皆さんは取り組まないのですか? と言われ、私が関わるNPO法人IDDMネットワークで試しにやってみました。
一気に1000万円を超えるふるさと納税が集まりました。東京の国立国際医療研究センターの春日雅人前理事長から「日本に寄付文化は根付かないと思っていたけど、ふるさと納税が日本の寄付文化を変える端緒になる」とまで仰っていただき、これは他のCSOでも行けると思いました。
佐賀県に集まるNPO団体
佐賀県に進出してくださった第1号は、ダイアローグ・ジャパン・ソサエティ。完全に光を遮断した空間で視覚障がい者のサポートのもと様々なシーンを体験する企画をしていらっしゃるところです。他にも難民等を支援する国際NGOピースウィンズ・ジャパンやAAR Japanなど、佐賀に進出するCSOは着々と増えつつあります。
それと同時に、CSOの支援や金融機関の融資の紹介などを行う「佐賀未来創造基金」ほか、佐賀のCSOが共同で誘致に取り組んでいます。
これからも、佐賀県庁と県内のCSOと一緒に、「自発の地域づくり、佐賀」ということで、課題解決に向けて取り組んでいきたいと思っています。外からいろいろな方々が入ってきて、県内のCSOの皆さんがどんどん活性化していき、一緒になって地域の課題を解決していきたいというのが私どもの考える理想型です。
イノウエ 私自身は、いろいろな団体や行政のファンドレイジングのお手伝いをするコンサルタントとして、全国各地のNPOや行政の方々と一緒に仕事をしています。
紹介がありましたふるさと納税というのは2017年度には3653億円に達しました。日本の個人の寄付市場というのは7800億円ほどですので、ふるさと納税は日本の個人の寄付市場でかなりの割合を占めるようになってきたと言えます。
佐賀県と同じように、ふるさと納税を使ってNPO指定ができる地域はたくさんあります。県の単位では7つぐらい、市町の単位ではそれ以上です。しかしほかはなかなかうまくいってないようです。
佐賀の場合には、佐賀県庁全体で6億6000万円くらいふるさと納税が集まっていますが、そのえうち4億6000万円ほどががNPO指定のふるさと納税ですので、こちらの割合のほうが多くなっています。
著明なNPO団体がなぜ佐賀に集まってきたのか、お気付きになっている点を教えて下さい。
岩永 私自身もこういうメジャーなところが来ていただくとは思っていませんでしたので、本当にありがたいなと思っています。やはりふるさと納税がメリットなのかと思っていたのですが、意外とそうではなくて、皆さん役所とすごく話が通りやすいということをよく仰います。
最初は、地元のCSOの皆さんも、「我々がいるのになんで県庁はほかの団体を呼ぼうとしているのか、私たちのやることは信用でないのか」みたいな声もあったんですけど、著名な団体が来られると、自分たちのスキルも上がるし、先進的なノウハウもあって、想像以上に自分たちのプラスになっているので、今非常に盛り上がりつつあるのかなと思っています。ただ正直私も「これ」というものはよくわからないんです。
それでも私が心掛けていることは、やはり官と民の両方の立場を理解するということです。「いやいや、それは役所の理屈だろう。そうじゃなくて、もっと相手の話をちゃんと聞いて、寛容に対応することが大事だよ」というようなことも言っています。地道に、こつこつやってきたことが実を結び、「佐賀に来てもいいかな」と思っていただいたのでしょうか……。
イノウエ ありがとうございます。コツコツやってこられたことと、岩永さんのような行政マンがいらっしゃること自体が成功の要因ということですね。ありがとうございます。
お二人のお話を聞いて、やはり官民協働は必要だと感じました。民だけではできることには限界があるので、つながっていくという必要があるし、官の方も、行政が多様性を保つようにして、柔軟な発想なり対応ということも考えていかなければならないんだなというところが一つ、キーワードかなと思います。
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。