仏論客に傾倒か
事件発生の前、この男と見られる人物が犯行を予告する長文の声明をツイッターのアカウントに掲載した。男は自称「ファシスト」と名乗り、28歳の白人オーストラリア人だと明らかにした。オーストラリアのモリソン首相は犯人の1人がオーストラリア人であることを確認した。
男は動機については「侵略者からわれわれの土地を守り、白人の子どもたちの将来を確保する」ことだとし、イスラム教徒の移民を「侵略者」と位置付け、同教徒の出生率が白人の脅威になっているなどと“陰謀論”を展開した。犯行の目的についても「直接的に移民の流入を減らすこと」と指摘している。
モリソン豪首相が「過激な極右のテロリストによる犯行」と言明しているように、イスラム教徒の移民を嫌う白人過激派のヘイトクライム、“反イスラム・テロ”の可能性が高い。アーダン首相も、過激派の考えが入り込む余地は、ニュージーランドにはないと非難した。
男はニュージーランドで犯行を起こしたことについて、「大量移民に脅かされない場所がないことを示すため」との理屈を披歴しているが、他の容疑者がオーストラリア人かどうかは不明。ニュージーランド当局によると、容疑者らは過激派の警戒リストには入っていなかったという。
ワシントン・ポストによると、男はフランスの右派の論客の主張に傾倒していた可能性があるという。この論客はレナード・カマス氏。2012年の著書「大交代」の中で、欧州の多数派白人は現在、北アフリカからの非白人移民によって乗っ取られる過程にある、という理論を打ち出した。
男の声明のタイトルはカマス氏の著書と同じ「大交代」。男は声明で、2017年にフランス旅行をしたことを記し、同国が非白人による「侵略」にさらされているとの確信を抱いたと語っており、明らかに影響を受けた兆候がある。
メディアの報道によると、ニュージーランドのイスラム教徒は2013年の調査で、人口460万人のうち約4万6000人だったが、現在は中東からの移民により、イスラム教徒が急増している。こうした事情もあり、家賃や住宅価格が跳ね上がり、与党の労働党は先の総選挙で移民の抑制を掲げていた。
ニュージーランドは銃社会でもある。銃火器の登録をしている国民が120万人(2017年)もいる。しかし、銃による殺人事件の発生は少なく、07年以来では、年にほぼ10件にも満たない。1990年に隣人同士のいさかいが原因で13人が射殺される事件が発生し、銃所有の規制が厳しくなった。
今回の事件は、シリア内戦などで中東やアフリカからの移民・難民が発生した「難民危機」以来、欧米で高まる反イスラムの動きがニュージーランドやオーストラリアにも波及していることを浮き彫りにするものだ。今回のテロに刺激されて、同様の事件が起きる懸念もあり、両国だけではなく欧米各国も警戒態勢を強めている。
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