2024年11月21日(木)

WEDGE REPORT

2019年3月9日

 トランプ大統領の“独裁者好き”はよく伝えられるところだが、米朝首脳会談の際、北朝鮮から解放された後に死亡した米学生オットー・ワームビアさんが受けた扱いについて、金正恩労働党委員長が「知らなかった」と弁明したのに対し、トランプ氏が「信じる」と応じたのは衝撃的だった。案の定、米国内では学生の両親らから批判が噴出、議会から攻勢を受ける大統領の窮地がさらに深まる結果となった。

(REUTERS/AFLO)

金正恩は本当に知らなかったのか

 ワームビア氏はバージニア大学に在籍中だった2015年12月、5日間の北朝鮮ツアーに参加、帰国する際、ピョンヤン空港で逮捕された。宣伝ポスターを盗んだというのが容疑で、強制労働15年の刑を受けた。17年6月、トランプ大統領の尽力で解放され、帰国したものの間もなく、脳の損傷で死亡した。

 損傷の原因は明らかではないが、米政府や情報機関はワームビア氏の死亡が投獄中に北朝鮮の官憲から拷問を受けたことが原因と見ている。トランプ大統領は昨年の一般教書演説の際、同氏の両親をわざわざ演説会場の議会に招き、北朝鮮を激しく非難した。両親はこの際、涙して大統領に感謝した。

 しかし、トランプ氏は2月の米朝首脳会談後の記者会見で、金氏はワームビア氏の処遇について「知らなかった」と言っており、「彼が知っていたとは本当に思わない。金氏の言うことを信じる」と語った。さらに大統領は金氏がワームビア氏の死亡を「残念に思っている」とまで付け加えた。

 この大統領の発言に対し、ワームビア氏の両親は声明を発表し「首脳会談の間は尊重して黙っていたが、息子の死は金とその邪悪な政権のせいである」と断じ、大統領をも批判した。共和党からも批判が噴出、「ワームビア氏は金正恩に仕える残虐な政権に殺害されたのに、大統領はどんな状況下に同氏が置かれていたのかも質していない。金正恩は彼がなぜ死んだか知っている」(同党下院議員)などと反発が広がった。

 大統領は政権1年目には金委員長を「チビのロケットマン」「北朝鮮は炎と怒りに包まれるだろう」などと非難したが、米朝交渉が始まると「素晴らしい指導者」「相性が合う」「美しい手紙をもらい“恋に落ちた”」などと称賛、あまりの豹変ぶりに側近らさえ当惑した。

 しかし「金正恩が多数の国民を飢えさせ、身内を含め自分に反抗する人間を何人も投獄、殺害してきたのは周知のことだ。今もなんらその独裁者ぶりは変わっていない」(アナリスト)のも事実。こうした中で、トランプ氏の金氏に対する変わりようは異様と言うしかない。

 「大統領がワームビア氏の両親を一般教書演説に招いたのは、政治的に利用したにすぎない」(同)というのが一般的な見方だ。トランプ氏の“通訳役”を担っているボルトン大統領補佐官は「大統領は金氏の言ったことを披歴したのであって、(金氏が知らなかったという)現実を受け入れたわけではない」と擁護しているが、いかにも苦しい弁明だ。


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