現行の年金制度では、5年ごとに財政検証を行って一定の経済前提の下での給付額と保険料を算定しなおしており、制度の持続性は確保されている。また、最新の2009年2月の財政検証では、年金受給者の受取額が2050年でも所得代替率(現役世代の標準的な収入に対する年金支給額の割合)が、モデル世帯(夫が会社員で専業主婦の世帯)で5割を維持するとされている。しかし、この前提となる経済見通しはあまりに楽観的なのだ。
この前提(2009年財政検証・基本ケース)では、2015年度から39年度までの年平均で実質経済成長率をプラス0.8%とする一方、物価上昇率はプラス1.0%、名目賃金上昇率はプラス2.5%、そして名目運用利回りはプラス4.1%と置いているが、経済成長率や物価上昇率と比べた賃金上昇率や運用利回りが、バランスしないような高い伸びとなっている。これでは、年金保険料納付額や年金支払い準備等のための積立金が順調に増え続ける計算結果となるのは当然であり、所得代替率5割が維持されるのか疑問を持たざるを得ない。
冒頭で述べたように、民主党は、昨年衆院選に続いて今年の参院選のマニフェストでも、厚生年金や国民年金など異なる年金制度を全国民共通の所得比例年金に一元化し、低年金者には「最低保障年金」を支給するなどを柱とする仕組みを示している。
最低保障年金は全額国庫支出で支えられることから、この部分は所得代替率を心配する必要はない。しかし、所得比例年金部分は賦課方式であることに加え、最低保障年金に充当する税収や年金積立金の運用利回りも経済成長に大きく依存する。したがって、民主党の改革案が、少子高齢化で経済停滞やデフレが深刻化、恒常化しても耐えられる頑強な仕組みであるとは言い切れない。言い換えると、年金制度は現行であれ、改革案であれ、日本の今後の人口動態や財政動向に大きく左右されるということだ。
超高齢化という厳しい現実
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今後の人口動態から見ると、年金や社会保障制度を取り巻く環境はさらに厳しい。政府の人口推計によれば、今後日本の総人口は加速度的に減少し、2025年には1億1927万人となる見通し(中位の出生率と死亡率の予測を前提)である。そして、総人口に占める65歳以上人口の割合(高齢化率)は2020年には29%、25年には31%と見込まれている。
この高齢化率と国民負担率との関係をOECD加盟国について示した右のグラフ(図B)を見てほしい。そこには相応の正の相関関係が窺え、右肩上がりのトレンド線でその関係が示されている。
一方、このグラフの時点(2005年)では、日本の高齢化率は20%であるが、国民負担率は大多数のOECD諸国の水準よりも低い。この差は、社会保障水準の差に加えて日本の国民が小さな負担で相対的に大きな社会保障給付を受けていることも意味し、その一部が財政赤字による補填である。