このことは、国民に自覚を促すものでもある。もちろん、社会保障水準の維持が将来的に難しくなるということだけで、国民に100%自助努力して老後を過ごす覚悟をしろということには全くならない。
しかし、参院選後に高まる制度改革論に並行して、国民も、将来の日本の現実を見据えて、「すべてを国に任せる」という考え方を改めていく必要がある。国民負担率を過重にしないことも含めて、真の持続性がある社会保障制度をつくっていくには、国・企業・個人すべての主体が社会保障制度を支えていくように、現行の枠組みを再構築していくしかないのだ。
実は、年金制度については、頑健性を増す試みが欧米諸国でも行われている。欧米諸国でも、日本ほどではないにしても高齢化が進んでいるからである。具体的には、負担増加、給付抑制そして仕組み改正への取り組みである。負担増加では、保険料引き上げや保険料拠出年数の長期化などが行われている。給付抑制では、給付水準の抑制に加えて、67~68歳への支給開始年齢の引き上げ等が行われている。また、仕組み改正では、賦課方式から積立方式へ、給付建てから拠出建てへウエイトを移す動きもある。また、私的年金を促進させる取り組みもある。
家族主義的な福祉レジームを
日本では、これらの動きに加えて、企業活力の向上も不可欠である。充実した社会保障制度を維持しているスウェーデンを始めとして日本でも、社会保障負担の多くは、国民自身の拠出ではなく企業が担っている。国民の雇用と所得の多くを企業部門が担っていることも勘案すれば、企業部門が、雇用と所得の水準を引き上げる一方で、業績向上でより多くの社会保障を担えるように、競争力向上を実現することは、基本中の基本と言える。
また、少子高齢化の流れを抑制すべく、強力な少子化対策や女性・高齢者の労働力率向上策などを実施し、人口減少と経済成長率の低下を抑制することも欠かせない。さらに、対名目GDP比で見た場合、企業の法人税負担がやはり主要国中一番重い一方で、その社会保障負担がドイツやフランスほどには重くないことから言えば、法人税率を引き下げつつ、その引き下げ分の一部を企業の社会保障負担に上乗せするやり方なども検討に値しよう。
いままで日本に根付いてきた家族主義的な企業経営や家族内での支え合いを公的に支援することもプラスである。企業の高齢者雇用を公的にバックアップする制度はすでに導入されているが、家族内での扶助についても扶養家族への課税控除額を一層拡充することなどが検討されてもよい。
将来の人口動態や財政状況から見ると、国、企業と個人全ての総力を挙げて社会保障制度を支えていく制度の設計が急務となっている。そのためには、時代が変化しているとの理由で顧慮されなくなりつつある、家族主義的な企業経営や家族内相互扶助を軸とする福祉レジームまで含めてどのように日本の将来にふさわしい社会保障を設計し、何より国民の心がまえを作っていくかを、真剣に検討すべきである。
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