とかく日本では、EUが「野心的」であり、環境問題の「優等生」だと考えられている。しかし、実態はそうではない。上のグラフを見て欲しい。EUはもともとの加盟15カ国のCO2でみれば排出量は増加しており、90年比▲20%という中期目標は困難にみえる。しかし、この間EUは27カ国に拡大し、新たに加盟した東欧諸国は、市場経済への移行に伴う老朽設備の廃棄で膨大な排出権を生み出すことができる。
日本が、世界最高レベルの省エネ技術をさらに金をかけて深掘りしてCO2を削減しなければならないのに比べて、あまりに状況が異なるのである。これが、限界削減費用の差(32頁右下図参照)となって表れている。
米国はそもそも京都議定書から離脱しており、その間さんざん排出量を増やしてからの削減であり、野心的であるはずがない。05年比▲14%(90年比±0%)という数字が飛び交っているが、米国は議会での法案採択が優先であり、国際的にはいまだ何ら公約していないことに注意を払う必要がある。
鳩山政権は詭弁から脱却せよ
誰もついてこなくても、自ら身を削るのだという姿勢は勇ましいのかもしれない。しかし、その前段にせめて、国民に負担や我慢を強いることを率直に語りかけるべきではないのだろうか。少なくとも前政権がやったことだからと、専門家の分析結果の数字をいじって明るい未来を演出することが新政権の仕事ではないはずだ。
これまで見たように、技術の進展で経済や国民生活へのダメージなく目標達成が実現できるというのは詭弁である。さらに、次項(別記事:「排出権取引制度は導入するな」)で見るように、排出権取引制度などの“政策の総動員”(鳩山演説)でそれが実現できるというのも詭弁である。
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