まず有力オピニオン雑誌「フォーリン・ポリシー」は5月2日付けのゲスト・コラムで以下のように酷評した。
「トランプ政権発足以来、ジャーナリストや学者は外交面における“トランプ・ドクトリン”の何たるかについて論じてきたが、今、国務省政策立案局長の口から具体的な考えが吐露された。それは、文化や人種的アイデンティティが超大国間の関係を律するというものであり、たんなる失言とか軽率発言ではなく、現政権の根幹にかかわる姿勢だが、不正確で、欠陥だらけの有害な考えと言うべきである。
スキナー局長は中国を『非白人大国』と位置付け、西側陣営の価値観とは異質であり、従って両国が協力し合う余地はなく、どちらが世界を支配するかの選択の問題と述べた。実に大胆な発言だが、証拠に基づくものではなく明らかに間違いだ。現政権下では大統領はもちろんのこと、ジョン・ボルトン大統領補佐官はじめ素人集団が外交プロたちを圧倒的に上回り、素人受けしやすい『文明の衝突』論を説こうとしている。新たに明らかにされた“トランプ・ドクトリン”が文明対立的な思考に立つとすれば、それは人類の文明自体を対立に導くことになる」
ブルンバーグ通信は5月4日の解説記事の中でこう論じた。
「米中間の競争は今後何十年にもわたって続く重要事であるとのトランプ政権の主張は正しい。だが、文明間の衝突モデルとしてとらえることは、わが国の利益にはならない。なぜならそれは、中国側の術中にはまることになるからだ。
両国の間には深遠な文化的差異があることは事実だが、将来の世界をスティーブ・バノン前大統領補佐官が喧伝してきたような、西側キリスト教圏対非キリスト教圏の対立として色分けすることは、イデオロギー的にも地政学的にも非生産的である。
中国はかねてから、アジア諸国はアジアの価値観を共有しており、異質な存在であるアメリカが干渉すべきではなく、アジアの問題はアジアに任せるべきだとの立場をとってきた。しかし、アメリカにとって重要なのは、基本的人権と民主主義の確保であり、人種的、文化的違いを強調することは、ベトナムやインドのような共通の価値観を持ったアジア諸国を敵に回すことになり、極めて危険な思想と言わざるを得ない」
アメリカは日本を非白人大国とみなし、太平洋戦争を経験
ワシントン・ポスト紙も4日付のコラムで「スキナー局長は『史上初の非白人国との対決』を予言したが、誤謬に満ちている。かつてアメリカは日本を非白人大国とみなし、太平洋戦争で大規模な戦争を経験した。
それ以前から、日本は“大国クラブ”の一員としての平等な待遇を要求してきたにもかかわらず、アメリカでは“黄禍説”が吹き荒れ、対日移民制限措置が取られたことなどが重なった結果、最後は日米両国の衝突となった歴史がある。
もし今日、中国に対しても、非白人であることを理由に対立を助長することになるとすれば、中国のタカ派を刺激し、より対立的な外交関係に追いやることになりかねない」と警告した。
海外でもスキナー発言は大きな反響を呼び起こしている。
オーストラリアのABCネット・ニュースは5月4日、同国政府外務省高官(複数)があいついで匿名でスキナー女史を批判する以下のようなコメントを報じた。
「彼女の発言はきわめて有害であり、われわれは支持しない。わが国もアメリカも多人種国家であり、非白人国家との対決を助長するような考えは分裂をあおり、きわめて危険極まりない」
「北京政府は西側諸国に居住する中国系2世、3世に対し、同じ人種的背景であることを理由に、本国への忠誠を求めてきた。わが国は他の西側諸国同様、こうした中国側の要求に断固反対している。しかし今、非白人との対決を唱えることは、まさに中国共産党の術中にはまることを意味し、われわれはこの種の言辞はいかなる状況下でも断じて使うべきではない」
当然のことながら、一段と激しい反応を見せたのが 中国だった。