中国共産党機関紙の国際版として知られる「Global Times」は5月5日付けで「前途なきアメリカの文明衝突論」の見出しでこう反論した。
「スキナー政策立案局長は、ワシントンが現在、『異質文明との戦い』という概念に依拠した対中国戦略を立案中と述べたが、ポンペオ長官率いる米国務省は中国および中国文明に対する敵意を扇動するものだ。中国は永年にわたり戦争に加担せず、軍事的膨張に反対してきたばかりか、いかなる文明を妨害したこともなかった……アメリカの主たる目的は、傍観者的立場にある西側諸国をけしかけ、中国封じ込めの試みに加担させることにある。
だが、今日、ワシントンの狂信的政治エリートを除いて世界で、文明間の戦いを歓迎する人はほとんどいない。中国人民は自己中心的ではなく、中国の社会的価値システムをもって世界を威圧しようという野望も持っていない。中国封じ込めの目的のために各国、各地域を米国の陣営に引き入れるのではなく、両国間で均衡を保つことこそ、世界中の最善の利益となるであろう」
日本が他人事ですませるべき問題ではない
一方、今回のスキナー発言は、日本が他人事ですませるべき問題ではない。日本は中国同様にアメリカにとって「非白人国家」すなわち異人種にほかならないからだ。
しかも日本にとって皮肉なのは、アジアにおいて最も頼りにされるアメリカの同盟国として、台頭する中国の脅威に共同対処していこうという立場にあるという事実だ。
この点、もしトランプ政権の長期戦略が「非白人国家」中国との対決ということになれば、日本の置かれる立場はどうなるのか、という疑問にぶつかることになる。そして、アメリカが今後将来的に「白人対非白人」という人種的色分けで外交を推進していくことになるとすれば、やがて日本国内で、アメリカとの同盟関係そのものに対する批判論を助長させることにもなりかねない。
こうした点からも、わが国としても、思慮分別を欠いた今回のような、害多く益少ない米政府の戦略論に対しては、同じ同盟国であるオーストラリアと同様に、米側にその真意をただし、日本の立場をしっかり説明していくべきだろう。なぜなら、かつて太平洋戦争につながった日米関係史を振り返ると、米国内で高まった「黄禍説」に反発する形で、わが国で軍部を中心に反米主義が勢いづいた経緯があるからだ。
なお、筆者はかつて、このような「文明の衝突」という概念については、その“産みの親”ともいうべきサミュエル・ハンティントン博士と彼の研究室で二時間近くに渡り、議論したことがある。
その際、中国との関連で「(博士は論文の中で)日本も西側とは異質の文明であることを明確に指摘しているが、それでは日米関係の将来はあまり楽観視できなくなるのではないか」とただしたのに対し、以下のような歯切れの悪い答えが返って来たことを付記しておきたい:
「日米間に存在してきたような経済的諸問題は今後も存続していくだろうし、日米安保協力・同盟関係も変わらないだろう。しかし、長い目で見た場合、日米関係がどうなるかは、大国としての中国の成長・発展いかんと、それに日本がどう反応していくかにかかっている。そのありようが、日本の対米関係を決定づけるだろう」(1997年集英社刊、拙著『日本救出』参照)
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