二拠点目で体得した「地域で暮らす心地よさ」を都市でも生かす
この暮らしを始めた当初、若い農家さんに教えてもらったことがある。「自分で自分のことを“わたしはこういう人間です”とアピールするより、親しいご近所さんができるまでじっくりと過ごし、そのご近所さんが“馬場さんってこういう人だよ”とまわりに言ってくれるようになるのが一番いいはず」。
地元の口から「少なくとも怪しくはない」と伝わり、理解される。次第に野菜などをいただくようなやりとりができる。しばらくすると、彼らが自分の話をしてくれるようになる。
これはビジネスとは違う信頼の築き方であり、時間はかかるが一生モノの信頼関係が生まれるプロセスだとも言える。
地域の人達とそうした関係ができてくると、場所への愛着は“自分の家”から“自分の地域”へと拡充していく。
ここで、1拠点目とも言える都市の暮らしを振り返る。果たして自分は、東京の家の近所のおばあちゃんがどれほど夫を好きだったか知っているだろうか?隣のおじさんは、仕事の悩みを話してくれるだろうか?
ひょっとしたら、週末しかいない二拠点目の方が、地域で生きているんじゃないかと気付く瞬間である。
そこで、ふるまいが変わることもある。東京の暮らしの方を見直してみようか、という心の動きが生じたのだ。
筆者の都市生活での近隣関係は、こどもの学校関係者との交流以外は実にあっさりとしたものだったが、最近は小さく生き生きしはじめた。ご本人がこのコラムを読んでおられたらバツが悪いのだが、これまでニコリという表情を見たことがなかった隣のおじさんにしつこく笑顔であいさつをしていたところ、だいぶ彼の口角が上がるようになった。先日はついに「自転車カッコイイね」と声をかけられ、衝撃を受けた。嬉しかった。
二拠点目の暮らしの潤いが、一拠点目にも影響を及ぼし始めたようだ。