外国人材を商品開発支える製造現場に
新たに日本へ来た外国人が企業の人手不足を解消する手段になってしまうことを永井氏は懸念する。「外国人を戦力として使うことが重要。安く使おうとしてしまうと、やられる」と強調する。著書では、外国人労働者に熱視線を送る総合不動産管理会社や、多くの外国人を雇いペルー人社員を日本人への指導も担当する幹部候補生に出世させた自動車部品メーカーといった外国人材を戦力として活用する企業を取り上げる。総合不動産管理会社は東京オリンピック・パラリンピックで需要拡大が見込まれるホテルのベッドメイキングに外国人を担わせ、将来的に海外進出のキーマンとすることを狙う。そのため、すでに雇用する外国人社員には、教育と住環境を提供し、両親が来日した際にも食事会を開き満足度を上げている。自動車部品メーカーのペルー人社員は、派遣社員として金型を交換する工程で働いていたところから、真面目な働きぶりや能力を評価して正社員に登用した。このように、同メーカーは外国人だからと差別をせずに仕事機会を与え、外国人と一括りにしないで丹念にコミュニケーションをとることを重視してきた。外国人が問題なく働くまで10年以上かかったものの、職場で外国人と普通に接する日本人社員は国際感覚が豊かになり、海外展開しやすくなったという。
また、南米日系人労働者の移住が進んだ群馬県東部の「太田・大泉」を現地取材。文化や生活習慣が違う外国人といかに生活していくか、日本語学級設置など模索している様子を示す。ただ、「共存はできるが、共生となると課題は多く、道半ば」と大泉町職員は会社員としての利益活動だけでなく、生活者として地域で暮らすことの難しさを指摘する。外国人材活用のカギは「日本語・日本文化教育体制をとれるかどうか」と語る。
今後、外国人材に期待されるのが日本のモノ作り活性化だ。「平成30年の間、先端分野のリチウムイオン電池や半導体、フラッシュメモリー、液晶、有機ELはすべて日本が一時は世界のトップを走っていた。けど、中国や韓国に抜かれてしまった」と永井氏は振り返る。その一つの要因が製造現場の支えがなかったことだった。「ものづくりは、研究開発と工場生産の両輪があって、成り立つ。日本の電気がだめになったのは、研究開発だけ国内に残してアジアに工場を移したこと。研究開発分野が工場とやり取りせずに、机の上やパソコンだけで商品を考え、ポイントがずれた」と解説する。
韓国は海外各国の生活習慣を見て仕様を変えてきた。自宅に招いた客人に家電を見せる中国で派手な洗濯機、メイドのつまみ食いが問題となっているインドで鍵の付いた冷蔵庫、イスラム教徒の多い中東でメッカの位置を知らせる磁石が付いた携帯電話などと、マーケティング現場の意見を吸い上げた商品開発をして、販路開拓に成功しているという。永井氏は日本企業に、こうした現場との密なコミュニケーションを取れる環境整備を求める。「そのためには、開発や生産の現場を支える人材として外国人が有効になる」と話す。
ただ、著書では、「特定技能」の従事する職務が細分化され過ぎていることを問題としている。「例えば、電子機器組み立ての仕事だと、その分野のみしかできず、金型のメンテナンスや機械の修理といった付帯する周辺業務をやってはいけないことになっている。コツコツ積み上げ、組み立ての仕事はできるようになるかもしれないが、周辺業務ができてこそ一人前になる」と話す。今後、いかに制度運用されていくかが問われてくる。