外国人観光客だけでなく、コンビニや居酒屋で働く外国人労働者を目にする機会が多くなった。それもそのはずで、1988年には94.1万人だった在留外国人の数は2018年末時点で273.1万人と3倍近くも増えている。政府も外国人労働者の受け入れに積極的な姿勢を見せ、2018年に出入国管理及び難民認定法(以下、入管法)を改正、多くの外国人労働者を受け入れると明言している。そこで『ふたつの日本 「移民国家」の建前と現実』(講談社)を上梓した「ニッポン複雑紀行」編集長でライターの望月優大氏に、日本の「移民政策」の特徴、外国人労働者の実態、今後の「移民政策」について話を聞いた。
――最近新しい在留資格「特定技能」の創設や技能実習生の失踪など外国人労働者の受け入れについて話題になることが多いです。日本政府は、「移民」という言葉を避け、「外国人材」という言葉を使い、外国人労働者に関する政策を「移民政策」でないとしていますね。しかしながら、実質的には外国人労働者がここ30年で急増しています。日本の「移民政策」にふれる前に、まずは先進各国の移民政策の特徴について教えていただけますか。
望月:各国ともそれぞれに違いがありますが、先進国については大きく2つにわけられます。アメリカやカナダ、オーストラリアといった伝統的な移民国家の場合、国の成り立ちからして、さまざまな国からの定住を前提とした移民を受け入れることが国のあり方自体に組み込まれています。
一方、フランスやドイツなどのヨーロッパ諸国では、第2次世界大戦によって多くの若者が死亡し、戦後の復興のために大量の労働力が必要になりました。そこで、相対的により貧しかったイタリアやスペイン、東欧諸国、またアフリカなどの旧植民地や中東の国々などから、期限付きの労働者、ゲストワーカーを大量に受け入れていきます。しかし、1970年代に入るとオイルショックに直面するなど、経済成長にも陰りが見えてきます。そこで、新規の外国人労働者の受け入れを停止することになるのですが、すでに国内にいる数多くの外国人労働者についてはいきなり帰国させるわけにもいかないため、彼らについては母国から家族を呼び寄せることを含めて定住を認めていくことになりました。以降、これらの国々では移民やその子どもたちと既存の社会とをどう統合していくかという問題に本格的に直面することになったのです。
――それらの国々と比較して、日本の「移民政策」にはどのような特徴があるのでしょうか?
望月:日本は、フランスやドイツに比べて経済成長が遅かったため、外国人労働者の受け入れが本格化したのは80年代になってからです。旧植民地に由来する在日コリアンの方など「オールドカマー」に対して「ニューカマー」と言われることもありますが、バブル期の前後までは国内の外国人よりも海外で暮らす日本人の方が多かったと言われています。
ここ数十年の日本の「移民政策」の基調は、低賃金の出稼ぎ労働者に政府が言うところの「いわゆる単純労働者」として一定期間働いてもらい、その期間が終了したら定住せずに帰国してもらうというものです。この「いわゆる単純労働者」は、表向きは労働者としてではない形で入国している技能実習生や留学生などによって構成されています。政府は表向きは一定の技能をもつ外国人だけを受け入れるとしてきましたが、実際にはその逆のことしてきたわけです。結果として永住権を持つ外国人も増加し、現在では在留外国人全体の4割を超えています。
スキルのある外国人労働者に関しては、家族の呼び寄せも許可し、その受け入れを表向きも促進してきましたが、実際には外国人労働者全体に占める割合はそれほど多くないというのが現実です。