榊は、下訳の謝礼を渡しながら、ほかになにかお礼ができないか、と元子に尋ねる。
元子 「夕ご飯をご一緒させていただけたら(ついずうずうしいことをいってしまった)」
彼女がちょっと目を離したすきに、榊はエプロン姿となって、パスタを作ろうという。
榊 「花のような香りがしたが」
元子 「ちょっと強かったですか」
榊 「よいではないか」
香水をつけなれない元子が、自宅で手と耳のうらにそっとつけてきたものだった。
橋本愛の成長、田中泯の魅力
週明けに教室に戻った元子は、週末の出来事が頭から離れない。そんな彼女に何度も榊が呼びかけたのに気づかない。講座のOB会の手配を頼もうとしていたのだった。すでに、元子は会場のホテルの宴会場を手配していた。榊は元子に、いつも世話になっているから「もっと礼をしたい。なにがいいかね」と聞くのだった。
元子 「デ、デ、デートがしたいです」
榊 「どこがいいかね」
元子 「いろいろ大丈夫なんでしょうか。誰かにみられたら」
榊 「包み隠さずいえばいい。バイトのお礼だと。
『検証』してみたくなったんだよ。大学の外で君と会うとどんな感情が生まれるのか」
元子 「教授! ひとつお聞きしたいのですが。『検証』とは?」
榊 「だんだん、自分がわからなくなってきた。教授としては丁寧に対応してきた。個人の榊郁夫としてはどうかということだ」
元子 「『検証』の結果は?」
榊 「個人として私の心は迷子のままだ」
元子 「私に対して、もっとおろかになってください。おろかになるのが、恋とは正しい気持ちだと知りましたから」
榊の家の近くにある洋館の庭で紅茶が飲めることを知った、元子は榊を誘うのだった。
元子 「教授とであって、自分がわがままで、嫉妬深いことを気づきました。嫌な自分を知って、心が熟していると感じます。教授に恋をしていることから逃げずによかった」
榊 「私は逃げた。君への思いから。君より上に立ち、君への思いを断ち切ることで君を守っている気持ちになっていた。詭弁を弄しただけだ」
榊は、ひとつの小さなスノーボールを手元にだした。元子とふたりで立ち寄った店で、彼女が「かわいい」といったので、買い求めたが渡せずにいたものだ。
榊 「私のおろかな想いと思って、受け取ってもらえないか」
元子 「また、こうやって、一緒に」
榊 「虫がよいことは知ったうえで」
元子 「こんなにうれしいことはないです」
榊 「ありがとう」
連続テレビ小説「あまちゃん」でブレークした、橋本愛の俳優としての成長を観るのも楽しい。ダンサーにして、映画やドラマにシニアからデビューした、田中泯の魅力も十分すぎるほどに、活かされた秀作である。
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