BSプレミアム「長閑(のどか)の庭」は、ドイツ文学の老教授・榊郁夫(田中泯)と、大学院生の朝比奈元子(橋本愛)との年齢41歳の差がある、男女の純愛の物語である。美しいセリフと、ふたりの心象風景を現すかのような湖や街々の背景が流れるように展開していく。まるで短編小説のようである。
「いつか素敵な庭でお茶を飲めれば」
物語は大きな事件が起きるわけではない。小さな出来事が積み重ねられながら、榊(田中)と元子(橋本)の距離が徐々に縮まっていく。元子は、いつも黒を基調とした服を身に着けていることから、ドイツ語の黒をはしょって「シュバちゃん」と呼ばれている。「グリム童話」を研究している。
担当教授の榊(田中)は、留学中のドイツでその学識が認められて、ドイツに残ることを勧められた過去がある。
元子の夢は、洋館の広い芝生の庭に置かれた小さなテーブルで、好きな人と紅茶を飲むことである。榊の自宅に資料を届ける途中に、元子はそんな大きな洋館と庭を見つける。「長閑(のどか)の庭」のタイトルは、そんな憧れを表している。原作は、アキヤマ香作の同名のコミックである。
第3回(6月16日)に至って、ふたりはそれぞれに対する恋と愛が急速に深まっていく。
元子が榊の研究室を訪ねると、彼はこういうのだった。
榊 「君の気持ちのことだが」
元子 「はい」
榊 「ありがとう、ただ、ありがとうとだけしかいえないのだが」
元子 「ありがとうなんて」
元子はうれしさにうつむくばかりだった。
友人の院生の富岡樹里(中村ゆりか)は、元子が想いを寄せる相手の名前は知らないが、恋愛の進展がどうなっているかを尋ねると、元子はこういうのだった。
「ありがとうって、いってもらえた。気持ちを認めてくれただけでも、うれしいことで。いつか素敵な庭でお茶を飲めれば、いいと考えていただけだったから」と。
週末に、元子は榊の翻訳の下訳を手伝うために、榊の書斎にふたりでこもって作業を続ける。
榊 「将来の方向性はあるのか?」
元子 「フリーの翻訳になれればと思っています」
榊 「学校が終わっても、人は勉強を続ける。それはなんのためかというと、自分の一生の価値を高めるためだ。楽しい、という言葉につきるかな。わたしは、小難しく、長く表現するのが悪い癖だ」
元子 「先生のそこがいいところだと思います」
榊 「いくつになっても、自分を肯定してもらうのはいいものだな」