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2019年6月21日

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露口洋介 (つゆぐち・ようすけ)

帝京大学経済学部教授

帝京大学経済学部教授。専門は中国経済、金融論。1980年東京大学法学部を卒業し、日本銀行入行。在中国大使館経済部書記官、日本銀行香港事務所次長、日本銀行初代北京事務所長を歴任し、2011年に日本銀行を退職。信金中央金庫、日本大学経済学部教授を経て2018年4月より現職。著書に『中国経済のマクロ分析』(共著)、『中国対外経済政策のリアリティー』(共著)、『アジア太平洋の未来図』(共著)、『中国の金融経済を学ぶ 加速するモバイル決済と国際化する人民元』(共著)など。

中国の短期・中期の対応は日本の教訓を学んでいる

 中国は、このような事態に対してどのように対応しようとしているのだろうか。問題の発端がアメリカ側の対中貿易赤字であったことから、短期的な対応として考えられたのが、中国側の対米輸入増や輸出抑制によって貿易赤字を減少させるということである。2018年4月に習近平国家主席はボアオ・アジアフォーラムで行ったスピーチにおいて、中国が主体的な輸入の拡大を行うことを打ち出した。その後、2018年5月にムニューシン財務長官と劉鶴副首相の間で行われた米中協議において中国は米国から商品とサービスの購入を増加し、米国は農産物、エネルギーの対中輸出を増加させることなどを合意し、直後に中国は自動車及び自動車部品や日用品の輸入関税率の引き下げを発表した。

 しかし、アメリカ側は2018年7月に通商法301条に基づき、中国からの輸入品340億ドルに対して25%の追加関税を賦課し、中国側も同規模の対抗措置を採るに至った。アメリカは中国の外資企業に対する技術の強制移転など知的財産権の問題や、「中国製造2025」政策にみられる中国の産業政策、補助金の問題など、単なる貿易赤字の問題ではなく中国の政策制度を問題にしている。

 これに対し中国側も、中期的な対応として、法改正を含む制度面の変更を図ろうとしている。その際、中国政府は、日本とアメリカの間で1960年代以降発生した貿易摩擦問題や日米構造協議における日本側の対応とその後の推移を詳細に研究している。日米間では、1960年代の繊維から始まり、鉄鋼、自動車、半導体などの分野で1980年代まで貿易摩擦問題が生じ、日本側が輸出自主規制を行うことなどで対応した。しかし、1980年代半ばからは日米円ドル委員会(1983年開設)や日米構造協議(1989年開始)などで日本の金融市場の自由化や、非関税障壁の撤廃など制度的な面の対応に問題の焦点が移行した。その結果、日本で、金利の自由化や、大店法、独占禁止法の改正などが行われた。

 中国でも、2019年3月に技術移転の強制を禁じた「外商投資法」が成立した。中期的には、可能な範囲で制度的対応を図ってアメリカとの合意を形成しようという意図が見える。

中国の長期的対応は最悪の事態も想定

 以上のような対応でアメリカとの間で合意が得られれば良いが、このような制度的対応によっても根本的な部分での対立が解消されずに合意に達せず、制裁関税や個別の中国企業に対する制裁が長期に解除されない状況が続いたり、さらに制裁がエスカレートしていくという場合、中国はどのような対応を考えているのであろうか。前述の白書では、中国は対話と交渉で問題の解決を図りたいが、アメリカが争うのであれば、準備は十分できており、徹底的に対抗すると述べられている。

 このまま事態が推移すれば、アメリカと中国の間の取引や投資は急激に減少し、最悪の場合、二つの国の経済が事実上分離する可能性がある。アメリカの制裁措置というリスクに対して、実は中国はかなり以前から対応を図ってきた。その一つが人民元の国際化である。2009年7月に人民元の国際化を開始した際、中国人民銀行はその理由として、中国と他の諸国間の取引を第三国通貨で行っていると、大きな為替変動のリスクにさらされるため、海外取引決済に人民元を使えるようにすると述べている。この第三国通貨は明らかに米ドルを指している。しかし、為替リスク以外にも、海外との取引を米ドルで行っていると、その決済が最終的にはニューヨークで行われるという問題がある。アメリカが中国に対して金融制裁を発動すると、アメリカ所在のすべての銀行に命じて、中国の米ドル決済を停止することができる。そうすると米ドルを利用した中国の対外決済は不可能になってしまう。これは中国の安全保障にかかわる問題であり、このような事態を避けるためにも中国は対外取引をできるだけ人民元で行えるようにしようと考えたわけである。その後米ドル中心の国際決済情報システムであるSWIFTに替わるものとして、人民元の国際決済システムであるCIPSを2015年に立ち上げるなど、米ドル依存を回避する努力を続けてきた。

 最近、中国政府の元高官と話をする機会があったが、米中摩擦への長期的対応について「中国には巨大な国内市場があるから十分耐えられるし、今後、戸籍制度の改革など供給側構造改革を通じて、国内消費の拡大を進めていく」と述べていた。一帯一路政策によって海外市場を開拓すると同時に、アメリカとの貿易に頼らなくてもよい内需中心の成長モデルを作ろうとしているわけだが、14億の人口を擁する巨大な消費市場が拡大していくならば、中国国内で製品やサービスの取引を行うことによって経済成長することが十分可能である。2019年3月の全人代の政府活動報告では課題として強大な国内市場の形成促進が挙げられている。2019年1月からは消費活性化のため、所得税の減税が実施された。

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