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2019年6月21日

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露口洋介 (つゆぐち・ようすけ)

帝京大学経済学部教授

帝京大学経済学部教授。専門は中国経済、金融論。1980年東京大学法学部を卒業し、日本銀行入行。在中国大使館経済部書記官、日本銀行香港事務所次長、日本銀行初代北京事務所長を歴任し、2011年に日本銀行を退職。信金中央金庫、日本大学経済学部教授を経て2018年4月より現職。著書に『中国経済のマクロ分析』(共著)、『中国対外経済政策のリアリティー』(共著)、『アジア太平洋の未来図』(共著)、『中国の金融経済を学ぶ 加速するモバイル決済と国際化する人民元』(共著)など。

 もっとも、国内消費市場が拡大したとしても、そこで売る製品をできるだけ中国内で製造できるようにするためのサプライチェーンの再構築も必須である。これには時間とコストを要するが、この点もすでに2015年の「中国製造2025」の中で自主ブランド産業用ロボットの国内シェアを2020年に50%、2025年に75%、半導体自給率を2020年に40%、2025年に70%にすることなどが目標に挙げられている。ファーウェイはすでにハイシリコンという子会社で半導体を開発しているが、報道によるとファーウェイ創設者である任正非氏は5月下旬のインタビューで、米国と同レベルの半導体チップをすでに生産する能力があると述べている。また、5月24日にはファーウェイの独自OSの商標登録が終了したことが公表されたと報じられた。米中貿易摩擦の発生によって、このような国内化のプロセスは、さらに加速しているものと考えられる。最終的に目標が達成されるかどうかは現時点ではわからないが、このような国内化が成功すれば、巨大な国内市場を抱える中国が内需を中心として、アメリカに依存しない経済成長を続ける可能性があるだろう。また、通貨面でも米ドルへの依存を減少させ、諸外国との取引を人民元で行う比率を引き上げていくことになろう。

求められる日本の対応

 現在金額的に見て世界最大の消費市場を有するアメリカと、今後世界最大になりうる14億人の消費市場を抱える中国の経済が分離した場合、それぞれは自国市場を中心に成長する可能性はあろう。このような事態に向かっていくかどうかは今後の米中交渉次第であるし、米中両国経済が分離に向かった場合に中国経済が成長を続けられるかどうかも定かではない。しかし、世界の2大経済大国が分離するということ自体が世界経済全体にとって大きな非効率をもたらす。その中で、日本は、安全保障上アメリカに追随せざるを得ないと考えられるが、今後国内市場の人口が減少していく中で、米中どちらかの市場を失うとすれば、大きなダメージをうける可能性がある。天安門事件の後、日本は世界に先駆けて中国との関係改善に動き、その後中国が欧米との関係を回復させるきっかけとなった。この時の日本政府の対応についてはいろいろと議論はあろうが、30年後の今日、状況は異なるが再びアメリカと中国が厳しく対立する事態が生じることとなった。日本は自らにとっての最悪の事態を回避するために、アメリカと中国の対立を緩和するよう努力すべきであろう。日本政府が2国間の問題をできるだけWTOなど多国間のルールに基づいて解決することを目指し、WTO改革を進めようとしていることは正しい対応と言える。一方で、最悪の状況を想定して準備を進めておくことも重要である。中国はすでに最悪の場合を想定して様々な準備を進めている。日本としても貿易取引や投資先の分散化、サプライチェーンの再構築、円の国際化の促進など、最悪の事態に備えた準備を行っておくべきであろう。

  
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