自らの筋肉を把握し、試合で最大限の力を
コンディション管理も大きく変わった。それまで、技術や戦略を教えるコーチと、選手の体調を管理するトレーナーの仕事ははっきりと分かれていた。「今ではトレーナーとコーチの仕事がクロスオーバーしている」という。コーチが選手の筋肉の動きや身体のバランスを見て、トレーナーに選手の体調を確認。トレーナーは選手と一緒にウオーミングアップをして身体の動きを見た上でマッサージやストレッチを施す。状況によっては、コーチと相談して練習メニューを変更させる。
こうしたコーチとトレーナーの密な連携により、選手の筋肉の疲労傾向などもわかり、大事な試合で力を発揮させることが可能となる。日本選手権に向けても「多くの選手は準決勝から決勝まで空いた1日を休み、決勝当日の午前もストレッチなど軽い運動だけで、エネルギーがたまったまま試合で一気に走る、という管理をしているだろう。試合の1、2時間前に1本か2本ダッシュするだけ」と分析する。全米大学選手権から立て続けのレースとなっているサニブラウンに関しては「予選を通じてコンディションを整えている。スタートが得意でなく、シミュレーションするタイプでもないので、決勝前でもダッシュしていないだろう」と話す。
現代では、筋生理学の発展によって、どれほどの練習で筋肉の疲労がたまり硬くなるか、どれぐらい休んだら回復するかといったことが分かるようになっている。それは選手の体質やトレーニング方法によって異なる。「自らの筋肉の疲労と回復のリズムを把握したうえで、選手は試合に向けてトレーニングする日と休む日を決めている」と白木教授は解説する。
日本短距離は、最新の科学技術やそれを扱うコーチやトレーナーで飛躍的な成長を遂げた。「サニブラウン選手や桐生選手のように最新のトレーニングとコンディショニングを経験した選手が指導する立場になったら、またレベルは上がる。足の速い日本人が増えれば、日本スポーツ全体のレベルアップにもなる」と期待している。
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