2024年11月22日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年8月27日

 7月23日、中国とロシアは日本海と東シナ海で空軍共同軍事演習を行い、韓国と日本の防空体制を試した。この際、韓国空軍が、同国が不法占拠している竹島(韓国名:独島)の領空をロシア軍機が侵犯したとして300発以上の警告射撃を行ったことで、日本でも大きなニュースとなった。

(bankrx/Aleksandar_Gavrilovic/iStock/Getty Images Plus)

 この中ロ空軍共同演習を契機に、中ロの提携強化に注目が集まった。米国の論壇では、米国防省の掲げる「米国の主敵は中国とロシア」というラインに沿ったものが多く見られた。例えば、米バード大学のWalter Russell Mead教授が7月29日付でウォール・ストリート・ジャーナル紙に寄稿した論説‘Why Russia and China Are Joining Forces’は、今回の共同演習について「この数年強化されてきた中ロ間の提携の一例に過ぎない」と指摘するとともに、「世界の秩序を乱しているのはトランプよりも、中ロの2大国が力を増し、IT技術の進歩を悪用しつつ、自らの影響力を世界中で拡大しようとしていることにある」と言っている。

 現実の米ロ関係はどうか。7月2日の中距離核戦力全廃条約(INF条約)失効にもかかわらず、現在、トランプ大統領はロシアへの宥和的姿勢を徐々に強化しつつあるように見える。これまで「トランプはロシアと"ぐる"になって、大統領選で勝利した」ことを証明しようとしてきた民主党の作戦が、モラー特別捜査官の議会証言で最終的に破綻したことも一因であろう。

 ベネズエラでの米ロ対立がすっかり影を潜めた一方、米国はなぜか「ロシア産原油」の輸入を急増させている。米国がマドゥーロ政権制裁のために、ベネズエラ原油の輸入を停止したこととの関連が疑われる。更に、米国はイランに対するロシアの影響力を活用しようとしており、6月24日にはエルサレムでボルトン大統領安全保障問題特別補佐官とパトルシェフ・ロシア国家安全保障会議書記が、ネタニヤフ・イスラエル首相及び同首相の安全保障問題担当補佐官を含めて三者会談している。

 プーチンの側も、対米関係の好転を願っているものと思われる。西側の制裁はロシアに直接の大きな作用を及ぼしているわけではないが、長期的には先端技術及び資金の流入縮小を通じて、ロシアの経済に深刻なダメージを与える。制裁で沈んだ経済成長率は2018年上昇傾向を示したが(2.3%)、本年の第1四半期には1.2%に沈む等、再び停滞傾向を強めている。対米関係を何とかしない限り、ロシアはお先真っ暗である。従って、米ロ関係には、改善に向かう潜在的要因が存在していると見られる。

 中ロ関係については、必ずしも連携が強化する一方というわけではなく、関係が進んでいる面もあれば、競り合っている面もある。進んでいると見せかけて、実際には中身がないものも多い。中身があるのは、ロシアの中国への原油と天然ガスの輸出である。他方、「両国間貿易の決済ではドルではなく、双方の通貨を使おう」ということは長年叫ばれ、6月5日には協定も署名されたが、実効は上がっていないものと見られる。

 中ロの競合は、第一に中央アジアに見られる。例えばタジキスタンで中国が共同軍事演習を繰り返しているような例である。経済力を欠くロシアにとっては、防衛面での支援は対中央アジア外交の重要な手段であるのに(タジキスタンにはロシア軍1個師団が常駐)、中国がこれを侵食しつつある。

 東アジアでも中ロが必ずしも足並みをそろえていない例がある。ロシアは、中国とは微妙な関係にあるベトナムに潜水艦を売却したし、南シナ海を睥睨するカムラン湾の基地には軍艦を時々寄港させている。ロシア海軍が日本の海上自衛隊と合同訓練をすることもあるし、米国主宰のRIMPAC演習に参加したこともある(2012年)。つまり、ロシアは、中国を絶対的な提携相手としているわけはない。そして極東におけるロシアの戦力は、原子力潜水艦を除けば大したものではない。従って、「中ロ連携強化」には、こちらが過剰反応する必要はない。

 中ロ関係強化は自己目的ではなく、ロシアと中国が対米関係で用いる脅し道具という側面が強い。中ロのいずれかが対米関係改善に成功すると、しばらくお蔵入りになるものである。今後、米ロ関係が好転するようなことがあれば、ロシアにとって中国の重要性は低下する。ただし、極東部の脆弱性をよく心得ているロシアは、中国と敵対することは避けようとするだろう。ロシアを引き込んで対中牽制に使う、という論もあるが、なかなか成り立ちがたいと思われる。

  
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