2024年12月9日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年8月20日

 宇宙空間は、戦略的重要性がますます高まっている領域であり、日米協力も着実に進展している。2019年5月の「2プラス2」共同発表に「あらゆる領域横断作戦における宇宙の不可欠な役割を強調しつつ、閣僚は、機能保証、相互運用性及び運用協力を強化する宇宙関連能力に係る協力の深化の重要性を強調した」とある通りである。宇宙に関する日米協力についての高級実務者レベルの会合として、「宇宙に関する包括的日米対話」があり、2013年からほぼ毎年開催されている。5月の「2プラス2」を踏まえ、7月24日には同対話の第6回会合が、ワシントンで開催された。その主要点をまずご紹介する。

(FallenKnight/Rawpixel/SB//iStock/Getty Images Plus)

・日本側における宇宙安全保障能力の構築に向けた取組について説明するとともに、日本の準天頂衛星への米国の宇宙状況監視(SSA)ペイロードの搭載を通じたSSA能力向上などの両国協力を加速することを議論した。双方は、2018年10月にアラバマ州マクスウェル空軍基地で開催されたシュリーバー演習への参加結果を報告した。双方は、宇宙システムのサイバーセキュリティの強化が極めて重要であるとの見方を共有し、宇宙空間における行動規範を策定するために進められている多国間の取組に留意した。双方は、宇宙システムの利用を通じた海洋状況把握(MDA)の強化に関する協力の機会を探求するとの双方のコミットメントを再確認した。

・スペース・デブリ問題は、宇宙の安定利用にとってリスクとなっており、国際社会が協力して取り組む必要がある。日本は日米で協力して取り組んでいきたい旨説明し、米国は日本のイニシアチブを歓迎する旨応じた。

・双方は、宇宙空間における法の支配の強化の重要性を再確認した。双方は、持続可能な開発目標(SDGs) の達成における宇宙利用の役割を認識し、アジア太平洋地域での宇宙分野における信頼醸成及び途上国の能力構築のための協力についても議論した。

参考:「宇宙に関する包括的日米対話」第6回会合の開催(外務省HP)

 宇宙安全保障能力の中心となるのは、宇宙状況監視(SSA)である。SSAの目標の一つは、スペース・デブリ(宇宙ゴミ)への対応である。監視衛星と地上に設置されたディープ・スペース・レーダー(高度約5800キロ以遠の宇宙空間を観測できるレーダー)及び光学望遠鏡でスペース・デブリを観測し、稼働中の人工衛星に危険が及ぶ可能性がある場合には、回避等の行動をとる。もう一つは、同じシステムを用いて、人工衛星に対する攻撃や妨害の能力を持つ他国の衛星(キラー衛星)を監視し、攻撃対象となった人工衛星を守ることである。SSAにおいて、日米は情報共有を進めることになる。日本のSSAシステムは2023年より運用開始の見通しだが、これはアジアで唯一の米国との統合的SSAシステムとなるので、日米同盟の価値がさらに増大するであろう。

 上記発表でも触れられている、自衛隊のシュリーバー演習への参加も、重要な象徴的意義を持つ。これは、米空軍宇宙コマンドが主催した多国間机上演習で、2018年10月に開催されたのは12回目に当たる。米インド太平洋軍の管内で米国の偵察衛星や通信衛星が「競合国」から攻撃・妨害を受けGPSなどが機能不全に陥ったとの想定に基づいて、日本側がいかなる支援を行い得るかも含め、演習が行われたという。日米間の宇宙をめぐる協力の深化をよく表している。

 シュリーバー演習での「競合国」というのは、当然、中国とロシアが念頭にあろう。特に中国は、宇宙空間を制する者が戦略的優位に立つ「制天権」という概念を重視している。中国の認識は、その通りである。現在の宇宙空間では、まさに、「制天権」をめぐる争いが熾烈を極めている。こうした中、米国は「宇宙軍」創設に向け動いており、2020年の国防権限法に「宇宙軍」創設が盛り込まれている。フランスも6月にマクロン大統領が宇宙担当の最高司令部(「宇宙軍」に相当)を設置することを発表している。そして、日本も、2022年度に予定されている自衛隊の宇宙部隊創設を2020年に前倒しする見込みであると報じられている。加速度的に進む中国の宇宙進出に対し、西側がどのように協力して対抗していくかが問われている。

  
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