2024年11月23日(土)

スウェーデンで生きる 海外移住だより

2012年3月9日

 現在のスウェーデンは、原子力政策に前向きな中道右派連合が政権を握っています。それに対して、現野党第一党の社会民主党は従来から反原発の姿勢をとってきました。しかし、今年1月末には原発推進派として知られていた政治家が新党首に選ばれ、党内部で原発に対する意見の分裂が起きています。これを考慮すると、今後、スウェーデンが原子力政策の抜本変革を起こす可能性は少ないのではないでしょうか。

「脱原発」よりも「脱化石燃料」重視

 スウェーデンがなぜ原子力を推進するのか。それには一つ大きな理由があります。

 スウェーデンがエネルギー政策で最重視しているのが、「環境に優しいエネルギー」を利用するということ。化石燃料が環境汚染のマイナス要素であることは一般的に認識されている一方、現在でも大量に消費されています。今年1月9日の地元紙ダーゲンス・ニューへテルのIT・エネルギー大臣の発言によれば、2035年には世界の電力供給の3/4を占めるという見方もあります。しかし、世界中で電力の需要が高まっている中、このままではそれと平行にCO2の排出量も増加してしまいます。そこで対策の一つとして考えられるのが、大気を汚さず供給量も安定している原子力なのです。

 もとより、1980年に行われた原発に関する国民投票では「反原発開発、10年以内の原発全廃止」に38.7%が投票していますが、過半数以上の58%は「化石燃料依存から脱却し、社会に十分なエネルギーを再生可能エネルギーで生産できるようになるにつれて徐々に原発廃止」という項目に投票しています。残りの3.3%は無記入投票でしたが、元々「原発の使用継続」という選択肢自体はなかったのです。つまり、昔からスウェーデンでは、環境を害する化石燃料に頼るよりも、それならば原発を推進することによって少しでもクリーンなエネルギーを利用しよう、という意見が政府や国民の間に強くあるのです。

 また、国内の専門家の間では、現在推進されている第4世代原子炉の国際プログラムにスウェーデンも参加し、優れた技術をもってその開発に貢献すべきだという声もあがっています。そのために、実験用の原子炉をスウェーデン南部のOskarshamnにある発電所に新設しようという計画まであるのです。

 とは言え、反対派から全く声が上がってこないというわけではありません。

 これからも原子力開発に力を入れると、再生可能エネルギー分野で他国に遅れをとってしまうだけでなく、EUの協調性にも関わってくる、という反感が出ています。また、膨大にかかる資金面の問題も取り上げられています。

風力発電の可能性

 昨今、世界的にも関心が寄せられている再生可能エネルギー。原子力を優先しているかのようなスウェーデンのエネルギー政策ですが、実際はこの新エネルギーの分野でも他国の目を引いている部分があります。

 化石燃料に依存せず、環境に優しいエネルギーを求めるスウェーデンでは、北部地域に流れる川を利用した水力発電が以前から盛んでした。スウェーデンでは旧来、水力と原子力が国内の2大エネルギー供給源として活躍してきたのです。国内発電量の構成比も、昨年は水力が45%、原子力は39.6%と、昔からほとんど変わらない比率です。

*燃料の効率的利用、核廃棄物の最小化、核拡散抵抗性の確保等エネルギー源としての持続可能性、炉心損傷頻度の飛躍的低減や敷地外の緊急時対応の必要性排除など安全性/信頼性の向上、及び他のエネルギー源とも競合できる高い経済性の目標を満足するもの。(高度情報科学技術研究機構 RIST)

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