自治区の3分の1を併合と公約
ネタニヤフ首相は選挙を一週間前にした10日、自分の続投が決まれば、パレスチナ自治区であるヨルダン川西岸のヨルダン渓谷と死海の北部地域をイスラエルに併合する、と強硬方針を表明した。首相はすでに、パレスチナ自治区のユダヤ人入植地の併合を明らかにしており、公約通りにいけば、自治区の約3分の1が併合され、自治区に「パレスチナ独立国家」を樹立することは絶望的となる。「選挙のために和平を犠牲にした」(専門家)との批判は当然だろう。
パレスチナ側は「併合は戦争犯罪」(自治政府高官)と反発しているが、頼みのアラブ諸国からの支援表明はほとんどなく、見捨てられたような格好。ネタニヤフ氏はトランプ大統領が寛容な姿勢を示してくれていることを指摘しながら、過去50年で併合の最大の好機であると強調。「自分に国境を決める力を与えてほしい」と有権者の愛国心に訴えている。
世論調査では、国民の半数はパレスチナ自治区の併合に賛同しているが、実際にこれが選挙に反映されるかどうかは疑問だ。というのも、国民のほとんどはパレスチナ和平が進展するとは考えておらず、併合への関心が薄い。故に、ネタニヤフ氏の併合発表も有権者の気持ちを動かすまでには至らないとの見方もあるからだ。
首相には選挙後に刑事事件の被告になるという難問も待ち構えている。イスラエル検察当局は首相が国内通信大手に便宜を図った見返りに、傘下のニュースサイトで好意的な報道を要求したとして、汚職など3件の容疑で起訴する方針だ。首相は被告人になることを回避するためにも、議会で多数派を握って「刑事免責」法案を可決したいところだろう。
だが、最近になって、首相が側近に対し汚職を指示するかのような内容などの録音テープが相次いで暴露されたり、また新しい駐米大使の任命が拒否されたりする事態も発生、首相の統制力が弱体化した表われであり、「ネタニヤフ時代の終焉が近い」(同)との観測が加速している。