2024年12月23日(月)

中東を読み解く

2019年9月5日

 ニューヨーク・タイムズなどによると、イランは対決姿勢一辺倒だった対米戦略を劇的に転換し、米国の経済制裁による国家存亡の危機を脱却するため、最終的にトランプ政権と交渉するしかないとの判断に達したようだ。イランは9月5日にも「核合意履行破り」の第3弾を発表する見通しだが、トランプ大統領の再選願望を利用しようとするしたたかな新戦略も見えてきた。

(JNemchinova/gettyimages)

経済制裁、6年間も耐えられない

 この新戦略は8月初旬、ジャハンギリ第1副大統領が開いた対米アプローチを検討する政治顧問会議でも討議された。イランの指導部はトランプ大統領が来年11月の大統領選挙で再選される可能性が強いこと、そうなった場合、同氏の任期いっぱいの今後6年間も、経済制裁に耐えられないと判断しており、会議もその線に沿って進められたようだ。

 同紙がイラン政府内部に精通した人々の話として報じるところによると、新戦略は具体的に2つの並行した作戦によって主導されている。1つはトランプ大統領を苛立たせるため、軍事や核開発政策で挑発的かつ強硬な姿勢を示すことだ。もう1つは一定の条件下で交渉に応じるというシグナルを送り続け、トランプ氏の「取引の達人」という直感に働きかけることだという。

 つまり、再選が至上命題のトランプ大統領に対し「イランを屈服させて成果を上げた」と米有権者にアピールできるよう、イランと交渉した方が得だと思わせる作戦だ。イランはこの戦略に基づいて、すでに米無人機の撃墜、英国タンカーの拿捕などの強硬策を演出、向こう数カ月の間にはさらに緊張を高める行動に出る恐れがあるという。

 こうした行動は将来の交渉でイランの立場をできる限り強めておくことが狙いだが、5日にも発表する見通しの「核合意履行破り」の第3弾はフランスが打ち出した金融支援策を評価し、ウランの濃縮度を20%程度に高めるという当初の強硬案は見送る方針だ。20%は核爆弾の製造が容易になる濃縮度である。

 その一方で、イランはトランプ大統領を交渉に傾斜させるため、譲歩の“疑似餌”を準備。弾道ミサイル開発計画や中東各地の武装勢力への支援問題なども交渉のカードにすることを辞さない考えだという。イランはこうした譲歩と引き換えに米国から制裁の停止や経済的な救済の保証を引き出したい意向のようだ。

 第1副大統領の外交顧問の1人は「イランにとってのゲームの始まりだ。米選挙にアプローチすることはトランプとの交渉カードになる。こうした機会は今後10年間、訪れないだろう」とツイートした。


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