「対話ムードをぶち壊す必要があった」
攻撃前の状況を振り返ってみると、トランプ大統領がイランとの条件なしの対話に前向きとなり、今月のニューヨークでの国連総会に出席するイランのロウハニ大統領との首脳会談実現が取り沙汰されていた。対決から対話ムードに雰囲気が一気に変わり始めていた。
米国とイランが関係改善に動き出すかもしれない。このことを恐れた者たちにとって「対話は死活問題。直ちにぶち壊す必要があったのではないか」(ベイルート筋)。しかし、米国の権益、つまりはペルシャ湾岸の米軍基地や米艦船への攻撃は報復を招く恐れが強く、避けたかった。世界に大きな衝撃を与え、かつ報復されにくい標的として、米国の同盟国で、イランの敵国であるサウジの石油施設が選ばれたのは当然の帰結だったのかもしれない。
それでは米国とイランの対話が不都合なのは誰なのか。すぐ思い浮かぶのはイラン攻撃を主張してやまないイスラエルだ。しかし、イスラエルによる攻撃だと判明した時の米国の反発を考えると、そこまでは踏み切れないだろうし、サウジとの水面下での良好な関係を台無しにはしたくあるまい。
「様々な要素を考え合わせると、米国に屈服することを拒否し、ロウハニ政権の現実路線を嫌うイラン革命防衛隊の強硬勢力が浮かび上がる。彼らは米国との対決姿勢を掲げることで自らの存在感を維持しており、トランプ氏との対話や米国との関係修復は認め難いことだった」(ベイルート筋)。
しかし、この勢力が“黒幕”として特定されることはまずないだろう。6月の日本のタンカーなどが攻撃された事件の実行犯も不明のままだが、今回の攻撃と同じグループの仕業である可能性は否定できない。イラン内部のこうした勢力の行動については、ロウハニ大統領らは把握し切れていない公算が強い。イランは一枚岩ではないのである。