ロボアドは利用料金が割高になる
Q それではロボットアドバイザーが自動的に最適な資産配分や投資対象を提案してくれるロボアドこそが、AIを生かした投資方法なのでしょうか?
大澤 日本にはTHEO(テオ)やWealthNaviなどのロボアドが存在します。ETF(上場投資信託)の分散投資先をどうするかの配分を決めています。実際にはリスク配分を5段階ぐらいに分けて、それに合わせた投資先を選んでいます。ロボアド自体は悪くありませんが、資産運用を任せることによって投資一任報酬と呼ばれる手数料が別途発生するため、他の投信と比較すると利益を上げるのが難しいと言えます。
ただし、日本人は投資信託に対する敷居が高いと感じているので、スマホのアプリでロボアドで気軽に投資ができます、という心理的障壁を低くする役目を果たしています。実際に買っているのは公募投資信託です。これだと固くてとっつきにくいので名前を鞍替えしてロボアドが自動的に投資してくれますよと宣伝しているわけです。ロボアドで利益を上げようとすると、それ専門の会社でないと難しいでしょう。ちなみにDaisyはディープラーニングを使ったAIを使って資産を運用するための会社です。
FXで勝つのは不可能に近い
Q それでは上がるか下がるかだけを予測するFX取引にはAIが使えるのでしょうか?
大澤 FXは、日本語では外国為替証拠金取引と言われ、円やドルなどの通貨の売買によって、その差益を狙う投資です。レバレッジを掛けることによって少額な元金で高額な取引がおこなえます。こちらは時間軸で外貨を安く買って高く売るのですが、売買手数料とスプレッドと呼ばれる取引コストがかかります。つまりマイナスからのスタートになります。
FX会社が証券市場に接続していますが、ここでマーケットメーカーを使い価格調整ができるようになっています。つまり、FX会社は期待値プラス、参加者は期待値マイナスになります。AIを導入するとすればFX会社側が側が利用するという形になるでしょう。またFXをやるには時間がかかります。1日何時間もチャートや値動きを見続ける必要があります。これに対するコストが無視されていることが多いですね。デイトレーダーで年間500万円稼ぐ人がいるとして、そのために使った時間で働いた方が、もっと稼げたかもしれません。
日本ではギャンブルが禁止されていますが、一定数、ギャンブルの好きな人がいます。これらの人々がFXを選んでいると推測できます。人間は同じ期待値ならリスクを回避する傾向があります。これをプロスペクト理論と呼んでいますが、これとは逆にリスクを好む人もいます。期待値を無視してリスクを好む人がFXをおこなっていると考えられます。
15年前から温めていたDaisyの構想
Q Daisyの構想はいつ頃からあったのでしょうか?
大澤 私の大学での研究テーマは意識についてでした。意識とは情報を統合する存在にあります。イタリア人の神経科学者、ジュリオ・トノー二は「あるシステムが豊富な情報を統合できるなら、そのシステムは意識を持つ」と言っています。では意識は、なぜ意識たり得るのか。なぜ情報は統合されるのかという問題も存在します。生きるために意識が存在するという考え方があります。生きるためには様々な情報が必要でそれを蓄積することでメリットが生まれます。狩りの技術とか病気を直す方法とか。しかし、Webの場合は情報を蓄積してもメリットがありません。情報をいくら集めても0円にしかなりません。
そうすると情報に価値があるという社会が重要になります。それを実現しているのが株式市場です。効率的市場仮説というものがあって、人々はいつも合理的な判断を下すと市場はランダムウォークなって予測不可能になると言われています。実際には多くのインサイダーが存在するためそうはならず、より情報を持っている人が有利になります。基本的に情報に価値があるのが株式市場です。そこで私は株式市場において意識の存在が生かされるのではないかと考えていました。AIとディープラーニング(深層学習)の登場によって、それを実現する手段が得られたと思い、2018年にDaisyを創設しました。