2024年12月2日(月)

オトナの教養 週末の一冊

2019年8月23日

『世界の中心でAIをさけぶ』

 『世界の中心でAIをさけぶ』(新潮新書)は写真家、小平尚典氏との旅から生まれた本であるという。2年前はカルフォルニアのシリコンバレーを中心に、今回はその続きでシアトルを訪問。マウント・レーニアや、コロンビア・バレーにまで足を伸ばし満天の星の下で考えたこと、Amazon Goを体験して思ったことなど、旅の中での思索が日記のように綴られている。帰国後もAIのこと、シンギュラリティについてを考え続けている片山恭一氏が、その一端を語った。

文学賞の候補作品をAIが選ぶ未来

 私は何かの専門家ではないので、AIが日常をどう変えるのか、または我々の生活にどうかかわってるのかという視点で見ています。エンジニアの目線ではなく普通に旅をして感じた庶民の目線で書いています。例えば文学賞には何千という作品が送ってこられます。

片山恭一氏(写真、小平尚典)

 これの予備選考をAIがやる時代が来ると思うんです。無駄が省かれて便利になりますが、一方で無駄をなくしてもいいのかという問題もあります。我々は、予備選考で落とされるような作品を読むことで培われるものがあるのかもしれません。人間から無駄を省くとパフォーマンスしか残りません。

 そうなると性能のいい子供が欲しくなります。デザインチャイルドですね。あるいはデザイナーベビーですね。周りが全員、遺伝子操作した子供を産んでいるのに、自分だけ自然分娩ではスタートから差がつくので、じゃあウチもということになります。

 Alibabaがそんな尺度から個人のスコアを決めていくと、どうしてもみんなその尺度でしか物事を見られなくなります。年収とか、健康であるとか、ゲノム編集の技術を使って、子供をどんどんデザインしていく。そうなると人間世界の在り方が変わってくると思います。どんな方向に変わるのかは、これから見極めていく必要がありますね。

AIから見える人間の価値

 単純なアルゴリズムから始まったAIは、常に進化を続けています。最初はデジカメに負けていたスマホのカメラですが、どんどんキレイに撮れるようになって、今ではスマホで写真を撮れば誰もが失敗せずにイメージ通りの写真が撮れるようになりました。もっと進化すればプロカメラマンよりいい写真が撮れるようになる時が来るかもしれません。AIが人間と置き換わる、それがデジカメにおけるシンギュラリティと言えるでしょう。

 あるいは画像診断にしても、医者の下請けのようにデータを判断してきたのが、ある時点で医者の判断よりも正確になるかもしれない、それは医療におけるシンギュラリティだと思うんですよ。または法律の判例を判断する場合はAIと人間の差はほとんどなくなっています。

 MLBで監督が試合の時に投手を選ぶのにもAIに判断させて、それを参考に決めています。超高速トレードHFTの場合はマイクロ秒単位でマシンが取引をしています。これは完全に人間の能力を超えていますね。AIはビジネスでも医療でも表現活動の面で関与してきていますね。色々な分野にAIが進出してくることは確かです。

 AIにできることできないことがハッキリしてくると人間の価値が見えてくると思います。アルゴリズムでは判断できないこと、人間にしかできないことがあります。しかし、それを表す言葉があまりにも少なくて、経済的指標に置きかえられないものは価値がないとされていますから、そこをまず何とかしたいところです。


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