田部康喜のTV読本

2019年10月10日

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田部康喜 (たべ・こうき)

コラムニスト

福島県会津若松市生まれ。幼少時代から大学卒業まで、仙台市で暮らす。朝日新聞記者、朝日ジャーナル編集部員、論説委員などを経て、ソフトバンク広報室長に就任。社内ベンチャーで電子配信会社を設立、取締役会長。2012年春に独立、シンクタンク代表。2015年10月から東日本国際大学客員教授として地域振興政策を研究、同大・地域振興戦略研究所副所長を兼務。

原作を完璧に生かしたシーンも

 紫陽花のころ、お琴の稽古の帰り道の茶店で、お露はお米と休んでいるときに、遠目に見目麗しい浪人の萩原新三郎(中村七之助)に憧れの気持ちを抱く。新三郎は、浪人とはいいながら、父親が残した貸家や財産で、読書三昧の暮らしをしていた。

 飯島家の出入りの医師である、山本志丈(谷原章介)は新三郎の友人である。ふたりで人形浄瑠璃を観た帰りに、嫌がる新三郎を誘って、お露がいる柳島の寮を訪ねる。

 茶店で遠目に憧れの思いを抱いた、新三郎が訪れたことに、驚くお露に対して、新三郎も一瞬にして恋心を抱いてしまう。ふたりが初めて手を触れあうシーンは、原作の圓朝の速記本から紹介することにしよう。ドラマの脚本・演出の源孝志が圓朝の情緒を完璧に生かしているからである。

 ご不浄にいった新三郎を待ち構えて、手に水をかけ、手ぬぐいを手渡すシーンである。

「お嬢様は恥ずかしいのが一杯なれば、目も眩(くら)み、見当違いのところへ水を掛けておりますから、新三郎の手も彼方此方(あちらこちら)と追いかけて漸(ようよう)手を洗い、嬢様が手拭をと差し出してもモジモジしている間、新三郎も此のお嬢は真に美しいものと思い詰めながら、ずっと手を出して手拭を取ろうとすると、まだもじもじして放さないから、新三郎も手拭のうえからこわごわながらその手をじっと握りましたが、此の手を握るのは誠に愛情の深いものでございます。お嬢様は手を握られ真赤に成って、又その手を握り返している」(青空文庫・「三遊亭圓朝全集」より)

 ドラマに戻って、お露は新三郎をじっとみつめてこういうのだった。

「また、遊びに来てくださいますか。来てくださらなければ、死んでしまうかもしれませぬ」

 一方、平左衛門の後添えの地位を狙っていた、お国は、平左衛門がお露に婿を取らした後は隠居するつもりであることを知って、隣家の御家人の次男である宮辺源次郎(柄本佑)と組んで、平左衛門を殺して、源次郎と飯島家を乗っ取ろうという計画にのめり込んでいく。

  
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